新種の「ハイブリッド型GK」の誕生といったら大げさだろうか。

次世代ジャパンの守護神、J1ベガルタ仙台のGKシュミット・ダニエル(26)がキリン杯ベネズエラ戦で待望の代表デビューを果たした。身長197センチ、両手を広げた長さはも同サイズの197センチ。股下95センチ、リーチ85センチと規格外の大きさを誇る。だが、この男、サイズが大きいだけで代表に選出されたわけではない。

辛口批評で名をはせる元日本代表GK田口光久氏(63=秋田商OB)に「基本動作をきっちりとこなし、中でも的確なポジショニングと足の運び方がうまい。左右両方からの精度の高いキックもある」とサイズに加え、足回りの技術の高さを絶賛された。

東北学院中(宮城)時代にボランチだったことに起因しているといわれるが、サイズが大きいGKが怠りがちな足もとの所作を、日々厳しくチェックする「小さな」存在がいることが大きい。身長174センチの石野智顕GKコーチ(42)だ。42歳という年齢ながら、左右からの精度の高いキックに加え、強い無回転シュートも打てる。現役選手並のキック力で、キーパーチームの練習の質をキープしているが、それだけではない。小兵GKが生き残るために、門外不出のバイブルを持っているのだ。

石野コーチ 僕が一番必要だと思っているのはポジショニングです。いい場所に立ってれば、いろいろな状況に対応できる。ポジショニングが悪いと、正面で取れるボールもダイビングしなきゃいけない状況が生まれます。局面で相手がどこに蹴ってくるか予測して、適切なポジションを取ってディフェンス陣を声で動かすことで自分が対応しやすくなる。それができると、身長が低くてもカバーできる場面は多くなります。なおかつ、フットワークが良ければボールに早く寄れることができる。背が低いGKはそこをカバーして競り合うしかない。サイズが大きい選手はフットワークを重視しなくてもできる。ポジショニングがいいかげんでも、身長だけで何とかなってしまうことは多々あります。背が低い分、負けないようにするには、クロスに対する決断の速さとか思い切りの良さは常に意識していました。でかいやつが何でできないかというと、準備を怠っていたり、そもそも準備する気がない選手もいる。どうやったら効率よく守備範囲を動けるようになるのか。分かりきった動きをオートマチックにできるよう、反覆練習で体に染みこませることも大切なんです。

石野コーチは静岡の名門・清水商出身で、高校時代から高い壁にぶち当たってきた。1年先輩に今月引退を表明した元日本代表GK川口能活がいた。2年のとき、川口の控えGKとして選手権で優勝。レギュラーをつかんだ翌年の選手権では、同じく元日本代表のGK楢崎正剛(42)率いる奈良育英に初戦で敗れた経歴を持つ。

石野 当時から能活さんは本当にスーパーな存在でした。僕より身長も大きく、技術も高い能活さんにどうすれば勝てるのか常に考えていました。クロスボールに関していえば、一瞬でもちゅうちょしたら絶対前に出られなくなる。思い切りの良さは常に意識していました。それは身長が低くてもできることなので。

高い壁にぶつかることで、センサーを搭載しているロボットのごとく、常に細かく位置取りを微調整するポジショニングに磨きをかけてきた。それが、より正確無比な所作を追求するシュミットにとって、格好の教材となっているのだ。

石野 ボールのないところの動きだったり、体の向きだったり、細かい動きのところは練習中にゴールの横からうるさいと思われるぐらい指摘しています。ダン(シュミット)に関してはキックは正確です。飛距離が出るし、長短織り交ぜて柔らかいボールも蹴れる。左右遜色なく平均以上に蹴れるのは大きなメリットです。リーグ後半戦に試合に出続けたことで、課題を少しずつ解消しフラットに対処できるようになってきています。

海外移籍を志向するシュミットだが、次世代ジャパンの不動の守護神に君臨するためには、もうしばらく仙台でキャリアを積み上げることが近道かもしれない。【下田雄一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)


◆下田雄一(しもだ・ゆういち) 1969年(昭44)3月19日、東京都生まれ。Jリーグが発足した92年に入社し写真部に配属。スポーツではアトランタ、長野、シドニー五輪などを撮影取材。17年4月に2度目の東北総局配属となり、同11月から仙台を担当。