慢性肺血栓塞栓(そくせん)症と闘うJ2大宮アルディージャDF畑尾大翔(ひろと、29)が、医療従事者支援のためチャリティー企画を続けている。「Jリーガー×チャリティ」と題し、Jリーガーとサポーターの座談会を有料化し、収益金を医療従事者に寄付する活動だ。畑尾が企画、運営を担い、5月25日までに5回開催されて既に13万4300円が集まった。現在も薬を服用しながらプレーを続ける畑尾に聞いた。

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畑尾のチャリティー企画は5月18日から始まった。畑尾は新型コロナウイルスの感染拡大で練習がストップした4月から、サポーターのサッカー離れを危惧し、サッカー仲間とオンライン座談会を開き交流の場をつくってきた。参加者から「いい企画を考えてくれてありがとう」との声が上がった中、「社会的にも意味があるものにステップアップできないかな」と考え、座談会を有料化するアイデアにたどり着いた。

畑尾 自分が医療従事者にお世話になっている経験もあるし、ニュースで医療従事者に対する偏見が多いということも見て、医療従事者に恩返しする意味でもいい機会かなと思いました。(実業家の)前澤友作さんとか、本田圭佑選手みたいな額は無理ですけど、自分ができる範囲の中でやれたらと思って、チャリティーという形でやらさせてもらっています。

参加者は、畑尾のツイッターの応募ページから参加費「1000円」を払って申し込む。チケット購入者にビデオ会議ソフトのIDとパスワードがメールで送られ、参加できる仕組みだ。

第1回は畑尾と、ヴァンフォーレ甲府時代の同僚の新井涼平、橋爪勇樹がトークを繰り広げた。元湘南ベルマーレで現在、大宮所属のMF菊地俊介と石川俊樹のイベントの回もあった。トークイベントに参加しなくても医療従事者に募金するページもあり、1口100円から受け付けている。

既に5回が終了し、13万円を超える額が集まった。集まった金額から経費を差し引いた額を、医療機関に寄付し、寄付先と金額は今後、SNSを通じて発表する予定。畑尾は「目標の20万円は超えられそう」と手応えを口にした。

畑尾は早大4年在学時に、肺血栓塞栓(そくせん)症を発症した。心臓から肺に血液を送る肺動脈に血の塊が詰まる病気だ。症例が少ない病で原因が分からず、息切れなどの症状が出てから診断結果が確定するまで1年半の長い歳月がかかった。

「日本の医療進んでいるというのはうそだろう」と疑心暗鬼になった時期もあった。だが、留年して臨んだ「大学5年生」の時、岡山の主治医と出会って手術を受け、治療とサッカーを両立できる選択肢を示してもらえたことで、あきらめかけていたプロサッカー選手の道が開けた。

「主治医の先生に出会ってなければ現役続行は無理だった。こうやって夢をかなえさせてもらったのは、先生たちのおかげ。先生には『もっと活躍して病気のことを広げろ。まだまだ足りない』と言われてます」。

現在も年に1度、首からカテーテルを通し新たな血栓ができていないかを検査する。定期的な血液検査に加え、血液をサラサラにする薬も服用。本来は、薬は24時間効力がないといけないが、プレー中に出血すると止まらなくなるリスクがあるため、就寝時間帯だけ薬の効果が出るように服用している。起きている時間は水分を取ったり、同じ姿勢で長時間いないことを意識して過ごし、病と向き合いながら生活している。

5月31日には「トレーニング開催デー」を企画。早大時代、畑尾の手術後のリハビリに付き合ってくれた同級生のトレーナー、中井翔太氏がゲスト出演し、畑尾と甲府の新井、橋爪が参加者と一緒に体を動かす内容だ。企画も運営も畑尾の手作りだ。

パソコンに向かう時間も増えたが「おもしろかった部分はありますけど、ちょっと疲れてます(笑い)。午前中練習して、午後、自分でできることをやってるんですけど、フルタイムで働いているサラリーマンの皆さんを尊敬します」と笑う。

イベント中、参加したサポーター同士が「あっ、久しぶり」と声をかけ合う姿も新鮮だった。甲府のサポーターが「甲府戦以外は、石川選手と菊地選手を応援します」、大宮のサポーターが「新井選手と橋爪選手を応援します」との声が届いたこともうれしかった。チャリティー企画は6月初旬まで続けていく予定で「こういう企画を初めて個人でやりましたけど、やってよかったなと思う部分もたくさんあります」と話す。

緊急事態宣言が全面解除され、全体練習、公式戦再開の日程も間もなく決定する。自粛期間中も、平日の午前中は毎日、クラブハウスで個人トレーニングを続けてきた。

「こういう活動させてもらっていますけど、まずはピッチで活躍することが自分の一番の仕事」と気合を入れ、リーグ再開に向けて「勢いを出すために選手は必死になりますが、サポーターの声援が必要。ためたパワーを発散して、僕たちを後押しをしてくれたら」。

Jリーグのある日常を心待ちにしている。【岩田千代巳】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)