サッカー日本人初の兼任で新生日本代表を率いた森保一監督(50)が、初陣を完勝で飾った。日本(FIFAランク55位)が3-0でコスタリカ(同32位)に勝利。北海道胆振東部地震で7日チリ戦が中止になり4日遅れで迎えた初戦は、広島監督時代の教え子で初招集のDF佐々木が前半16分に先制オウンゴールを誘い、後半にMF南野、伊東が続いた。地震、台風に襲われた北海道と大阪に白星を届け、初の8強を目指す22年ワールドカップ(W杯)カタール大会へ好発進した。

代表監督の初陣最多となる3発快勝にも、森保監督は笑顔を見せなかった。会見冒頭、被災地への思いを4分45秒。「自然災害でつらい思いをされている全国の方々へ、選手が走り、粘り強く戦い、励ましのエールを送ってくれたと思う」と神妙だった。兼務するU-21代表で準優勝したジャカルタ・アジア大会から33日間、休みなしで迎えた初のA代表。気が張り詰める中、地震で予定まで狂ったが「伝えたコンセプトの具現化が簡単ではない中で、それぞれが特長を発揮してくれた」。そう評した時だけ柔らかい表情になった。

93年ドーハの悲劇を経験し、仙台で引退した03年。「いつか日本代表監督に」と誓い、小学生の指導から始めて15年後に初陣が実現した。万年筆でメモを走らせながら細かくポジション修正。東京オリンピック世代のU-21代表では、まだ国内で試合していない。後から兼任が決まったA代表で代表監督のスーツ姿が披露された中、前半に門出を祝う初ゴールが生まれた。新10番を託したMF中島の右CKに佐々木が頭を合わせてオウンゴールを誘発。広島監督時代の教え子を代表デビューさせて恩を返されたが、喜ばなかった。すぐにDF室屋を呼んで位置取りを直したのは、どうしても負けられなかったからだった。

本来の初戦7日チリ戦を控えた6日未明、北海道で地震に見舞われた。宿泊していた札幌市内のホテルは従業員の多くが被災。液状化現象で清田区の自宅が倒壊した人、震度7に襲われた厚真町に親族がいる人。つらいはずの従業員が選手や宿泊者を優先し、温かい食事を用意してくれた。森保監督は心を動かされ「試合はできなかったけど、人として試合以上のものを学べた」。1点リードで後半に入っても我慢できた。先発11人を信頼し、後半21分にMF南野が2点目を奪うとスイッチが入る。2分後から20分間で一気に交代6枠を使い切り、計4人を初出場させた。後半ロスタイムには途中投入の伊東が3点目。「多くの選手を試したかったけれど、勝利にこだわった采配」を貫いた。

ここから世代交代を進める。コーチから監督に昇格した7月、海外組のW杯メンバーに電話した。就任報告、そして9月の代表戦には招集しないことを丁寧に説明した。今月は若手中心で編成する覚悟を決め、W杯で1人も出番のなかったリオ世代に全3得点に絡ませた。元日本代表監督の岡田武史氏から「彼なら問題なく世代交代できる」と太鼓判を押され、前監督の西野朗氏に後継指名された期待に応え「さらに経験を積み上げて、選手を大きく成長させていきたい」。4年後のW杯8強へ最高のスタートを切った。【木下淳】