“絶対に負けられない戦い”が、ついにスタートする。

日本のワールドカップ(W杯)カタール大会に向けた、アジア最終予選がいよいよ今夜、始まる。

日本(FIFAランキング24位)は大阪・パナソニックスタジアム吹田で、オマーン(同79位)との初戦に臨む(午後7時10分キックオフ)。

初戦は重要だ。それもホームで相手は格下。ただ、油断は禁物。森保ジャパンは、カタールに向け、好スタートを切ることができるのだろうか。

敗戦から学ぶことも大切。こうなってはいけない、という悪いお手本、前回大会の初戦を、2016年9月2日付の日刊スポーツから【復刻版】として、お届けする(ハリルホジッチ監督、お元気ですか…)。

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<W杯アジア最終予選:日本1-2UAE>◇B組◇第1戦◇2016年9月1日◇埼玉スタジアム

バヒド・ハリルホジッチ監督(64)率いる日本代表が、UAEに1-2で逆転負けし、黒星スタートとなった。W杯アジア最終予選のホーム戦で敗れたのは、97年9月28日韓国戦(1-2)以来19年ぶり。埼玉スタジアムでのW杯予選不敗神話も18試合で消滅。現行のホームアンドアウェー方式になってから、同予選の初戦を落とした国は、本大会出場を果たせていない。チームは「確率0%」からの巻き返しを強いられた。

自陣でのラストプレーを前に、ハリルホジッチ監督はピッチ横からベンチに戻り、力なく座り込んだ。白いタオルで、ゆっくりと顔の汗をぬぐう。「非常にがっかりした。現実で、我々の実力が示された」。試合終了の笛。UAEの選手たちがピッチにひざまずき、神に感謝した。その光景を遠目に見ながら、指揮官は脱力したように、しばらくベンチから立てずにいた。

負けられない戦いだと承知していた。W杯アジア最終予選では、現行のホームアンドアウェー方式になった98年大会以降、初戦を落とした国が突破した例はない。前日には「当然、そのことも把握しています」と明言していた。UAE戦に向けてビデオ分析などを徹底。指揮官は「相手の出方は完全に分かっている」と言い切り、入念なミーティングで対策を選手に落とし込んだ。

これまで最終予選で中東勢にホームで負けたこともなかった。しかしふたを開ければ、これまでのイメージを覆すような、がっぷり四つの戦いになった。「期待通りのプレーができなかった。疲労もある。なぜこの選手を選んでしまったのかと疑問を抱きもした。でもそれ以外に選手がいなかった」。一進一退の攻防に持ち込まれたことで、微妙な判定が勝敗を分けることになってしまった。

1点をリードされた後半23分にはFW宇佐美が、ペナルティーエリア左サイド付近で倒された。しかし判定はノーファウル。激高した指揮官は、ベンチ前のタッチラインを踏み越え、5メートル以上もピッチ内に入って猛然と抗議した。

同32分にはゴール前の混戦から、最後はFW浅野が左足ボレーで押し込んだ。映像を確認しても、ゴールラインを割っているが、得点は認められず。疑惑の判定に「ラインをしっかり越えたようにも見えた。普通はラインを割ったらゴール」と苦虫をかみつぶした。

給水ボトルを蹴り上げて激怒する場面もあったが、やがて抗議する元気も失っていった。最後は打つ手をなくし、ベンチ前で片ひざをつき、祈るように自軍の攻撃を見守るしかなかった。「今夜は厳しい結果が出たが、事前にベストの試合はできないと予想してもいた。2試合目までには疲労も回復し、プレースピードを上げてくれると期待もしている」。最後は言葉に力を込めた。

(年齢、所属は当時のもの)