5年ぶり3度目の選手権出場だった実践学園(東京A代表)は、優勝経験のある滝川第二の前に試合運びで後手に回った。東京都大会では、パスサッカー主体のチームを破り全国の切符をつかんだ。それだけに、前線にボールを集め、セカンドボールの争奪戦という滝川第二が序盤で見せたサッカーに戸惑いを隠せなかった。

 深町監督は「最初の15分を踏ん張れなかった。滝川第二さんが見せたサッカーは、あまり私たちは経験していなかった。予測はしていましたが、あそこをしのげませんでした」と振り返った。立ち上がりから、最終ラインにダイレクトで長いボールを入れられ、処理した後のセカンドボールを拾われた。少しずつDFラインが下がりはじめ、セカンドボールを拾われてはシュートされ、さらに押し込まれて2次攻撃という悪循環。

 許した先制点もセカンドボールを豪快にボレーで蹴りこまれた。深町監督は「確かに相手のシュートが見事でした。ただ、あそこでもう少し寄せることができていたと思います」とシュートブロックできなかった寄せの甘さを反省した。

 ピッチの選手は、素早く危機を察知していた。主将のDF尾前は「すぐにシステムを変えなければと思いました。僕がボランチに上がって、そこでセカンドを相手の自由にさせないことが必要でした。ただ、ベンチの判断はもう少し待て、でした」と言った。追加点も奪われてしまったが、15分過ぎから尾前をボランチに上げると、試合展開は様相を変えた。

 もともとが、チーム全体でしつこいほど相手を追うチームだけに、セカンドボール争いで五分五分になると、徐々に支配率は高くなっていった。前半終了間際には、ダイナミックなサイド攻撃から最後はライナー性のクロスにMF北条がダイビングヘッドで飛び込む場面もつくりだし、攻防の主導権を握っていた。

 後半に入っても、右サイドから何度もゴール前に絶妙なボールを供給したが、わずか数歩味方のFWと呼吸が合わずことごとく相手GKに処理された。そのまま0-2で敗れた。尾前は涙で目を赤くしながらも冷静に振り返った。「相手は、僕たちが苦手にしているチームスタイルでした。先に失点してしまいましたが、その後の攻防では実践学園の戦いができたと思います」。

 尾前はクラブチームではなく、深川四中サッカー部出身だ。深町監督も「彼は中体連からここまで成長してくれた。彼のリーダーシップがあるから、チームはここまでまとまったと思います。よくやってくれました」と、ねぎらった。尾前は10月以降、トップチーム30人と、ひとりずつ面談を重ねてきた。すべては「会話して、みんなの考えを知り、みんなのモチベーションを高めたかった」ためだった。彼の人柄もあり、まとまりのある好チームへと成長していったといえる。

 東京都大会決勝では、後半から1人退場者を出し、10人で国学院久我山の猛攻をしのぎ、最後にFW武田のヘッドで1点を奪って勝ち抜いている。滝川第二相手にも最後まで諦めない精神力を随所で見せたと言える。

 素早いチェックで前を向かさず、かわされてもしつこく食らいつき、体半分を相手とボールの間にこじ入れるようにして、球ぎわで戦った。点差ほどの力の開きを感じさせない、緊張感ある一戦だった。