プレナスなでしこリーグのINAC神戸MF仲田歩夢(あゆ、24)が“成長期”を迎えている。

 13日、ヨルダンで女子アジア杯を戦うなでしこジャパンの5人、韓国代表の2人を欠いた神戸市内での練習。15日のなでしこリーグ杯C大阪堺戦(J-GREEN堺)に向け、いつも通りの緊張感でメニューを進めた。

 約1時間半のトレーニングを終え、昨季はコーチを務めた鈴木俊新監督(43)が「できることの幅が増えた。よく伸びている選手の1人」と仲田について評した。複数のチーム関係者から聞こえる「歩夢が伸びている」の声。12年、日本開催のU-20(20歳以下)女子W杯で3位に入り、「ヤングなでしこ」の一員として人気を集めた仲田は「実感はあまりないです。でも、2~3年前に要求されて難しかったことが、今、やっと理解してプレーできるようになってきました」と少し考えてから、ほほえんだ。

 15、16年はそれぞれリーグでの先発が1試合ずつ。昨季から徐々に出場機会が増え、今季はリーグ、カップ戦を合わせた全4試合に先発している。15年から昨季まで3シーズン指揮を執った松田岳夫前監督(56)からは当初、こう声をかけられた。

 「(副審の)旗、持たせるぞ!」

 サイド一辺倒のプレー。仲田は苦笑いで振り返る。

 「それまでサイドしかしたことがなくて、仕掛けてうまくいけばシュート、そうじゃなかったらクロスしか、選択肢が無かったんです」

 「中のプレーにもっとかかわっていけ」「(サイドに逃げるのではなく)人と人との間に顔を出しなさい」…。そういった指揮官の要求に応えようとは思うものの、自分の中で消化できず「どっちつかずで、全部が中途半端になっていた」と思い返す。

 松田体制2季目の16年には副将に就任。「副キャプテンになったから…かは分からないですが、今まで聞いてばかりだった自分が『こうしたかった』と意見を言えるように変わりました」。仲間とプレーについてやりとりをする中で、徐々に指揮官の要望を体現できる機会が増えた。慣れ親しんだサイドに、ピッチ中央でのプレーを織り交ぜることにより、試合中の選択肢が増えた。加えて、ピッチ外でも変わった。

 およそ1年前、何げない場面で松田前監督に声をかけられた。

 「甘いもん食うなよ!」

 大好物はグミ。コンビニやスーパーへ出向くと、そのたびに、1袋を買い物かごに入れていた。

 「それまではそういう(甘い)ものを控えたりは、全然してこなかったんです」

 ひそかな一大決心は、好物の封印。仲間がおいしそうにお菓子を食べているシーンでも、ぐっとこらえた。昨季中はそれをかたくなに続け、周囲から「もらいものでも食べへんの?」「空気的に食べた方がいい時は、食べたらいいんじゃない?」と言われるほどだった。

 現在はその声も一理あると考え「完全封印」は解いたが、ダイエット中のサラリーマンが「乾杯だけビール」というように、あくまでも必要最低限。体重は1~2キロ減り「それが(サッカーに)つながっているかは分からないですけれどね。最初はグミを食べないのがつらくて…。でも、今は平気になりました」と“甘さ”を捨てた。

 遠くヨルダンでは、なでしこジャパンが、アジア杯を戦っている。テレビ越しで見るピッチでは「ヤングなでしこ」として共に戦ったMF猶本光(24=浦和)ら同世代、そしてINAC神戸から選ばれた後輩たちも躍動する。

 「そこ(なでしこジャパン)に行きたい気持ちは常に持っています。そのためにも、チームで結果を残すことが大事。何年か前までは『ついていく側』と思っていたりしたけれど、今は『絶対に優勝したい』という気持ちです」

 鈴木監督は松田前監督の良さを引き継ぎつつ、さらなるチーム強化を図っている。人当たりの良い新指揮官だが、その言葉には重みがある。

 「(起用に関して)年齢は関係ない。でも、僕の考え方として、同じレベルで2人の選手がいるとすれば、下の選手を使います」

 想像よりは少し遅かったかもしれない“成長期”。だが、入団7年目の24歳が、1歩ずつ前に進んでいることだけは確かだ。【松本航】