5月に25周年を迎えたJリーグ史上初の出来事が2日、ルヴァン杯のプレーオフ第1戦の横浜F・マリノス-ヴィッセル神戸戦(ニッパツ)で起きた。神戸のMF三田啓貴(27)は、これまでつけていた背番号「8」から「7」へと変更した。シーズン中での背番号変更はJリーグ初のことで、そこには変更を受け入れざるを得なかった事情があった。

 日本のみならず、サッカー界で世界を驚かせたのがバルセロナのレジェンドとして活躍したスペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(34)の神戸入りだった。その超大物の電撃的なJリーグ加入が、MF三田にも大きな影響を与えた。イニエスタが好んでつけていた背番号が「8」。三田は今季途中まで「8」をつけており、この超大型移籍に伴い、「8」をイニエスタに譲る決断をしていた。

 そんな三田の決意を、Jリーグ側も異例のスピーディーな決裁で容認。リーグ期間中の背番号変更を認める改定を決めた。三田の「8」から「7」への変更のお披露目が、この日の横浜戦となった。試合はボランチで出場した三田の奮闘もむなしく神戸は2-4で完敗を喫した。

 試合後の三田も「4失点しては勝てないと思う。まだプレーオフの前半が終わっただけ。ホームで取り返したい」と、敗戦の弁を語った。そして、新背番号「7」について質問を受けると「最初は違和感はありました。でも、プレーではかわりないです」と、静かな口調で感想を口にした。

 改めて、背番号を譲った際の気持ちを聞かれると、じっくり考えた。決して投げやりでもなく、あきらめでもなく、言葉を選びながら言った。「神戸にイニエスタ選手が来てくれるということで、それは偉大なことだと思い、僕は譲りました」。端的な表現だが、非常に素直なコメントだった。

 イニエスタのチーム加入は、神戸のみならず、Jリーグ全体として、日本サッカーとして大歓迎の出来事であるのは間違いない。そうした歓迎ムードをより加速させるために、三田が決断したことは言うまでもない。ただ、プロとして自分の代名詞とも言える背番号を譲る気持ちは想像に難くない。しかも、シーズン中という異例の形ともなれば、これまで自分を応援してくれたファンに対しても、複雑な心境になるのは致し方なかった。

 そんな三田はプロらしくファンへの感謝の気持ちを行動に移すことにした。7月22日のホームでの湘南戦で、18年シーズンのオフィシャルフォントの「No.8 MITA」のユニホームを持参のファンに、写真撮影とサイン色紙をプレゼントする。これは三田が考案した企画で「初めてのNo.7大作戦」と命名した。

 一見すると超一流プレーヤーに無条件で背番号を譲った不運とも見えるが、ファンに感謝の形を示すことで、三田の「8」への思いも強く印象づけることができる。誰しもが経験できない強烈な出来事だけに、三田の思いがファンに届くことを期待したい。

 そして、イニエスタは神戸のMFとして、ポドルスキとのホットラインをつくり、チームを鮮やかに機能させるだろう。それは同時にMF三田のポジション争いが激しくなることを意味する。背番号を快く譲り、そしてすぐさま目の前にはチーム内の生き残りが見えてくる。

 相手は年俸33億円超(推定)とも言われる希代のパサー。それに対して三田の年俸は2500万円(推定)。三田にはこれからチーム内の激動と向き合わなければならない試練もある。背番号「7」の奮闘は、この日の試合から本格的に始まったと言える。【井上真】