ルーキーとはいえ大卒だけに、求められるのは「即戦力」。それが今季ノーゴールともなれば、のしかかるプレッシャーは日に日に増していた。本人も「日々、考えさせられるところはいろいろあった」と述懐する。その中で、待ちに待った待望のプロ初ゴールが生まれた。それがチームを勝利に導く決勝ゴールともなれば、喜びはひとしお。今季、阪南大から鹿島アントラーズに加入したFW山口一真は「こんなにゴールから遠のいたのは人生で初めてだった。とりあえず点が取れてホッとしています。気持ちよかった」と素直に喜びを口にした。

中3日で敵地に移動してペルセポリス(イラン)とアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦を行うため、直近の試合から11人全員を入れ替えた。山口は、同じくACL決勝第1戦前だった10月31日のセレッソ大阪戦に続いて、今季2度目の先発の機会を得た。

そのC大阪戦では両チーム最多9本ものシュートを放った。当時、一緒に試合に出たDF昌子源は「一真が最後までシュートに行くところは、点を決めたい、勝ちたいという気持ちの表れだと思う。最後までああいう姿勢を見せてくれたのは非常に良かった」とたたえていた。

だが、当の本人は、GKと1対1になる場面もありながら、ゴールを奪えなかった悔しさだけが残っていた。「次は取りたい」。そう思って臨んだ柏戦も、前半26分に拾ったこぼれ球を、ゴール左からフリーで放ったシュートは枠を外れ「絶対に決めないといけない場面だった」。もやもやはたまっていた。

だから、後半16分にやっと訪れたそのチャンスの場面では、いろいろな思いが頭をよぎった。カウンター攻撃からFW金森健志のスルーパスを受けたMF遠藤康のループシュートは、GKを越えたもののクロスバーをたたいた。そのこぼれ球が、山口の前に落ちた。

「これで決めないと『クビ』とか、いろいろ…こぼれてきたときにすごくいろいろなことを考えた。最後はボールもほとんど見ていないぐらいの勢いで…。ただ、気持ちで蹴ったら入ったみたいな感じでした」。

詰まりが取れるように、口から雄たけびを発し、サポーターの前に勢いよく滑り込んだ。そこに、普段は主力組の昌子ら控え組が一目散に駆け寄った。誰もが、山口の点を取りたい気持ちを分かっていた。だから、まるで優勝したかのように喜んだ。「みんな、僕が点が欲しいというのは分かっていたと思うし、その中でみんなに祝福してもらってとてもうれしい。チーム一丸となって戦っているなという感じがしました」。

日頃は試合に出られない選手が多く出場した試合でつかんだ勝ち点3。「普段、試合に出ていない選手が、こうやって点を入れたりするとチームの士気も上がるし、盛り上がると思う」。悲願のアジア制覇を前にルーキーが、チームの雰囲気を最高潮に盛り上げた。