新型コロナウイルスの感染拡大で試合が開催できない日々が続く中、ウェブやSNSを通じた発信が増えている。中でも主流なのが動画サイト「YouTube」だ。昨季引退した那須大亮氏(38)は、現役時代の18年7月からユーチューバーとしても活動している。やっぱり高収入なの? 動画制作の手間は? 自粛期間中、再生回数が増加しているYouTubeの世界について、サッカー界でのパイオニアである同氏に聞いた。

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チャンネル登録数22・6万人、配信した動画の再生数は最高で100万回を超える。那須氏は元プロサッカー選手でユーチューバーという独自の経歴だ。

-なぜユーチューバーに? 

引退後は監督やコーチ業に携わりたい思いもあった。ただ「今の日本では、他のエンタメや野球の人気がサッカーより上にくる。サッカーを1番にしたい」。特定のクラブや選手を育てたい気持ち以上に、サッカーそのものの人気をもっと広げたい。その思いで、18年間の現役生活に続くキャリアとしてYouTubeを選んだ。

-やっぱり高収入? 

今や子どもたちの憧れの的であるユーチューバー。人気が出れば大きな富を得られる、そんなイメージが強い。ただ那須氏の場合は「利益はほぼない」。動画の編集をプロに頼む、膨大な仕事をこなすマネジャーを雇う。機材や道具の購入もある。「経費がかなりかかります」と明かした。配信開始から約2年が経過したが「まだ駆け出しもいいところ。収益化は後回し。大きなものを生むための先行投資期間です」。

-Jリーガーでよかったことは? 

動画には選手だけでなく監督、Jリーグの村井チェアマンらも登場。「『お前じゃなかったら出なかった』と言ってくれる監督もいました」と、現役で18年シーズンを戦い抜いたことが生きている。

-ユーチューバーってどんな生活? 

動画には映らない生活は多忙だ。クラブ広報や選手のマネージャーにアポイントをとる、企画書の作成、日程の調整、できた動画の確認-。取材した前日も日が変わるまで仕事をこなし、寝たのは深夜3時ごろだった。「かなり不規則になった」という生活だが、自身の動画を通して選手個々の価値が高まることへのやりがいが大きい。

-人気が出るのはどんな動画? 

東京ヴェルディのFW大久保嘉人と高校時代を語り合った動画は100万回再生を超えた。「こんなに(再生数が)いくと思っていなかった」というのが正直な感想。大久保の1日に密着する企画がメーンで、対談は1度に3本撮影したうちの“3番手”だった。「他にないストーリーがあると、興味を持たれやすいのかも」と分析した。

サッカーに限らず、新型コロナウイルスの影響を受けてウェブの活用方法が見直されている。「YouTubeをあらためて認知してもらえた部分もある」と、社会全体に閉塞(へいそく)感が漂う中で前を向いた。目標はチャンネル登録数が100万人を超えること。試合が再開された後も、サッカーと選手の価値を高める動画を発信し続ける。【岡崎悠利】

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◆那須大亮(なす・だいすけ) 1981年(昭56)10月10日、鹿児島県生まれ。鹿児島実、駒大を経て02年に横浜F・マリノス入り、翌03年に新人王。04年アテネオリンピック(五輪)に主将として出場。6シーズン在籍した横浜で2度のJリーグ優勝。その後、東京V、ジュビロ磐田、柏レイソル、浦和レッズを経て18年にヴィッセル神戸に加入、昨季で引退。180センチ、77キロ。

◆人気ユーチューバー 人気の指数であるチャンネル登録者数の国内トップは「はじめしゃちょー」の856万人で、配信動画の総再生数は70億回を超える。次いでユーチューバーとして知名度が高い「ヒカキン」が運営する「HikakinTV」が835万人。芸能界ではオリエンタルラジオの中田敦のチャンネルが登録者数約220万人。ほかにも江頭2:50が203万、カジサックことキングコング・梶原雄太が198万、昨年闇営業問題で謹慎した雨上がり決死隊の宮迫博之は89・5万、渡辺直美は63・5万、お笑い芸人の四千頭身は59・2万となっている。

○…FC東京は2日から6日までの5日間で、YouTubeなどを通じて19本もの動画を配信した。外出自粛の中でもサポーターに楽しんでもらうための取り組みだった。FW武藤嘉紀、DF長友佑都ら東京出身の海外組、さらに横浜F・マリノスMF水沼宏太やセレッソ大阪MF清武弘嗣も登場。ピッチでは敵味方だが、クラブの垣根を越えた。J1に所属する全クラブが各自のチャンネルを持っている。