激動のシーズンは劇的な幕切れとなった。第99回大会の決勝で、山梨学院が青森山田に、2-2で突入したPK戦を4-2で制し、頂点に立った。11大会ぶり2度目の優勝。決勝がPKで決着するのは8大会ぶりだった。新型コロナウイルスが猛威を振るい続ける20年度。就任2年目の長谷川大監督(47)は自粛期間中に独自大会を開催。選手、保護者全員と面談を重ねるなど、チームを1つにまとめ上げた。選手たちもたくましく戦い抜き、無観客の埼玉スタジアムに、歓喜の優勝旗を掲げた。

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埼玉の空は、曇りがち。故郷・秋田の空は、どうだろうか。長谷川監督は、天を見つめた。「天国から見守ってくれていると思います」。18年8月11日、母校・秋田商の外山純元監督が亡くなった。69歳だった。葬式には行くことはかなわなかった。お別れ会で最後のあいさつ。同校は教員として、初めて赴任した学校でもあった。いろんな思いが交差した。「先生は(85年度第64回大会の)4位が最高成績。何とか超えられて良かったと思います」。天国により近い頂点から、優勝の報告を果たした。

信条は「やらないミスより、やってミスする方がいい」。青森山田は「10回戦って、1、2回勝てればいい相手」。勝利の奇跡はビルドアップの心臓部、相手DF藤原へのマンツーマン。神奈川大の監督時代、強豪早大との試合で用いたアイデア。「(相手は)思いつかないんじゃないかと。10対10にしようと」。大舞台で、奇策に乗り出した。

フィールドでは誰も思いつかない絵を描き、選手のためには0からイベントを作り上げた。コロナ禍で全国高校総体は中止。「選手権もできないと思っていた」。昨年7月。自ら発起人となり、山梨、長野、静岡の計6チームでの独自大会を開催。「監督の熱い思いに共感して」と味の素、キリンビバレッジが協賛についた。大会名はU-18甲信静 FOOTBALL LEAGUE 2020「From Now On」とし、英語で「これから」の意味を添えた。

未曽有のコロナ禍。先行き不透明の中で「失敗することを考えない」と前を見続けたシーズン。心のケアにも、行動力で向き合った。自粛期間中には、感染対策を取り、選手1人1人と3~4回の面談を行った。全寮制の選手たち。保護者には、約2週間かけて全員に電話した。自身も2人の子を持つ親。選手の様子を事細かに伝え、不安を取り除いた。教員になった理由は「選手権で優勝したかったから」。秋田から始まった指導者人生。ようやく夢をかなえたが、まだまだ「これから」だ。【栗田尚樹】

▼PK戦3勝 山梨学院は決勝で今大会3度目のPK戦を制して優勝。PK戦の1大会最多勝利は12年度大会優勝の鵬翔(宮崎)が記録した4勝。3勝は史上2位タイ。決勝のPK戦決着は12年度の鵬翔-京都橘(2-2→PK戦5-3)以来8大会ぶり。