熊本県八代市の私立・秀岳館高サッカー部で、30代男性コーチが3年生部員に暴行して書類送検されるなどした一連の問題について、教育制度学を専門とする京都産業大学現代社会学部の西川信広教授に話を聞いた。

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コーチから部員への暴力で明るみに出た問題は、2年生部員が入部予定だった中学3年生(いずれも当時)に暴力を振るう問題にまで連鎖している。

その背景を、西川教授はこのように分析する。

「スポーツエリート校の勝利至上主義が根底にあると思います。結果を残すことが監督やコーチの評価につながり、部活動が学校教育の一環という理念を超えてしまっている。寮生活も含めた部活が閉鎖された社会になってしまうことで、指導者から部員への暴力が日常的で黙認される体質があったのではないでしょうか。部活の本来の姿ではなくなっている」

では今、教育現場では何が起きているのか。

「私立高校における営利至上主義があります。少子化で生徒集めに必死になり、文武両道という言葉が失われてしまった。進学を目指す生徒は勉強だけ、スポーツで入った生徒はスポーツで結果を残すだけ。高校の教育で人格形成ができなくなっている。生徒数の減少で生き残りをかけるために、極端な個性を持つ私立高校が増え、その結果、ゆがんだアマチュアリズムが生まれた。高校レベルでは日本ほど極端な例はなく、間違った方向に進んでしまっています」

秀岳館高では部員が暴行動画をSNSに掲載することが問題発覚の原因となった。現代社会における教育現場とSNSの関わり方とは-。

「SNSの功罪として、うまく使えばいい結果をもたらし、間違えればとんでもないことが起きることもあります。運用能力を持つことが大切です。以前、いじめを受けていた生徒がユーチューバーに助けを求めた事例がありました。ユーチューバーが学校に談判をして、彼を守るんですね。いじめを受けても学校は何もしてくれない。告発としてSNSを使うことは、今後も増える可能性があります。うまく使うことを学生に指導しなければいけませんが、教員がSNSを使いこなせていないのが現状です」

最近では奈良県立山辺高校のサッカー部員が寮内で飲酒していたことが判明しながらも20年度の全国高校選手権に出場し、大会後に再び飲酒と喫煙が発覚。今年3月にも21年度の全国高校選手権を制した私立・青森山田高サッカー部の寮内で、ビールや焼酎缶が見つかった。

高校サッカー界での不祥事が続いている。

イギリスやアメリカでは18歳までが義務教育化されており、日本でもその議論がなされている。海外の教育にも詳しい西川教授は、今回の問題を踏まえて改善策をどう考えるか。

「野球にはドラフト制度がありますが、サッカーは他競技よりもプロと高校との距離が近い。高校のトップ選手がJリーグに行くことで、より教育を超え、結果至上主義になってしまっている。野球には高野連という厳しい組織があるように、それに匹敵する組織とルール作りを徹底することも必要です。我が国の高校の部活動でのサッカーには、あくまで『教育の一環』としての在り方が追求されるように指導できる権限と、理念を持つ組織が求められると思います」

 

【秀岳館サッカー部暴力騒動経緯】

◆20日 第三者からの連絡で、サッカー部の寮内で部員が30代の男性コーチから殴る、蹴るの暴行を受けている動画が拡散している事実を学校側が確認。

◆21日 3人が県警から事情聴取を受ける。

◆22日 サッカー部公式SNSで選手11人による謝罪動画を掲載。動画は再生回数100万回を超えたが、翌日に削除された。

◆25日 段原監督がテレビ生出演で一連の騒動を謝罪する一方、暴力動画を拡散させたとされる部員2人を加害者扱いする音声がSNSに投稿される。

◆26日 暴行をした当該コーチが退職願を提出していたことが判明。

◆27日 今春、県外から入部予定だった中学3年生が入学前に選手寮で、2年生部員1人から暴力を振るわれたとして、保護者が警察に被害届を提出していたことを学校側が認める。