岡山学芸館が接戦を制し、2大会連続5度目の出場で悲願の初優勝を飾った。過去最高はベスト16だったが、一気に頂点に駆け上がった。岡山県勢としても初の日本一となった。

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お父さん、お母さんにうれし涙を-。岡山学芸館のFW今井拓人(3年)が、今大会3ゴールで得点王(ほか4人)に輝いた。

つらい記憶がある。18年に岡山・倉敷市で西日本豪雨を被災した。川が氾濫する直前に、近隣の小学校へ避難した。水が引いて自宅に戻ると、1階は全て浸水していた。当時の光景は今も鮮明だ。「家にいくと、お母さんは僕の横で涙を流していました。初めてそういう姿を見ました」。家族の思い出が詰まった写真アルバムはなくなった。スパイク、ボール、すね当てなど、サッカー道具も全て水に流された。当時は中学2年生。今井は心に誓った。

「選手権の優勝と得点王で親を喜ばせてあげたい。自分が活躍する姿を見て、被災の時とは違う涙を流してほしい」

前半25分に右サイドを突破。鋭いセンタリングが相手DFに当たり、オウンゴールを誘発した。単独での得点王は逃したが「もう泣かせたくないと思ってました。自分が何かで喜ばせたい。今はうれし涙を流してくれてますかね。それだったら本当にうれしい。いい恩返しができたかな」。父大介さん、母裕子さんにとって、かけがえのない記憶になっただろう。

試合後、チームメートと最高の笑顔でカメラのフラッシュライトを浴びた。大会が終われば、金メダルを手に家族写真を撮影すると決めている。新しい家族アルバムに、最高の1枚が加わる。【只松憲】