日本サッカー協会の元会長で、相談役の川淵三郎氏が、初のベスト8進出を逃した森保ジャパンをねぎらった。FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本は目標のベスト8にあと1歩及ばなかったものの16強入りした。
川淵氏は12日、都内で行われた、自身が会長を務める、団体球技の活性化を目指す「日本トップリーグ連携機構」の式典の冒頭あいさつで「このW杯のおかげで、これほど幸福を与えるものはスポーツ以外にはないと断言してもいいんじゃないかと思った」などと話した。
川淵氏のあいさつ全文は以下の通り。
僕は今、結構大きな顔をしてここに立っている。本当にサッカーワールドカップ、よく頑張ってくれた。組み合わせが決まった時に、ドイツとスペイン、あんな強いところと当たって「グループリーグ突破なんてできやしない」とマスコミを中心によく言われました。
しかし、僕としてみればドイツとかスペインとか、W杯優勝国と対戦することはめったなことではない。戦えることは、ありがたいことだと思っていました。だから勝ち負けは別として、とにかくエンジョイすればいい、皆さんもあんまり勝ち負けにこだわらずに、スペインとドイツと日本がどう戦うのか、どのくらいの実力があるのかということをぜひ見てほしいと言っていました。
ところがドイツに勝ったから、「あれー」と浮足立って、コスタリカに負けた時にものすごく落ち込みました。「なんでこんなところに負けるんだよ!」。僕自身が、エンジョイしてくださいと言っていたにもかかわらず、エンジョイしていなかった。
最後のスペイン戦はもう1度初心に返って、「皆さん、スペイン戦は心からエンジョイしてください」と(言った)。「勝つように祈ってください」。そういうふうには一切言わなかったですよ。だって勝てると思っていなかったから。でも、勝ったので国中がとにかく大騒ぎ。
何と言っても僕がうれしかったのは、ドイツに勝った時から、朝から晩まで、得点シーンやいろんな選手の個々のエピソード、いってみれば道徳教育のような選手の話を出していただいて、スペイン戦に至るまで、国を挙げてこの勝利を喜んでもらえることは、本当にこれほどうれしいことはなかった。
はっきり言って、コロナが発生して以降、素晴らしい五輪やパラリンピックがあったにもかかわらず、スポーツ界がないがしろにされたような感覚があって、ずっと不愉快だった。しかし、このW杯のおかげで、やっぱりスポーツが世の中を明るくし、元気づけ、エネルギーを与える。これほど幸福を与えるものは、スポーツ以外にはないと断言してもいいんじゃないかと思いました。
僕は(中国が)胡錦濤国家主席の時に、CCTVで話をした。今の習近平さんもサッカーが大好きだから。今日も中国から取材が来た。「だいたい、今の中国のやり方で強くなると思っているのか?」と厳しいことを言うんですけど、僕が言えば言うほど中国が喜ぶようなので、厳しいことを言いました。
中国国民は親族が第一で、次が州で、国のためになんていう考えはまるでない。国のためにプレーする、働くという感覚はない。変えるためにはどうすればいいか。やっぱり草の根の子供たちから運動活動をすることによって、ピラミッドのような形を作ることで、トップのチームを作らないといけない。そうしない限りは、中国サッカーは何百年たってもトップにはなれないという話を今日、中国の記者に話しました。
そういった意味では日本は草の根からトップアスリートに至るまで、ピラミッド型が形成されている。これからもボールゲームの価値を大切にしていきたい。「卓球のような個人ゲームではなくボールゲームで優勝しないと国は盛り上がらない」と、彼らは言っている。
確かにそうだなと、僕自身も思う。ボールゲームの皆さんが、ここに集まっていただいて、国民を勇気づけ、そういう競技に働いておられるということを十分に認識していただきたいと思います。