ホーム > ニッカン式 食navi 郷土ずし編
南北に細長く、四方を海に囲まれた日本は、豊富で多彩な食材に恵まれている。この自然環境が、狭い国土でありながら各地に多くの郷土ずしを生んだ。北国には北国のすし、山国には山国のすし、海に近い地域には魚介類をふんだんに使ったすしといったように、郷土ずしにはそれぞれの地域特性が色濃く出ている。郷土ずしに詳しい森沢弘雅さん(70)をナビゲーターに、味わい方、楽しみ方を聞いた。
すし屋さんに入りたいと思っても値段が分からず、何となく入りづらいと感じている人は少なくありません
森沢さん 今ではメニューを置いてある店も多く見られますが、ちょっと前までは値段表がなく、高いというイメージがありました。それがすし屋さんへの敷居を高くしていました。値段を表示しないのは、毎日、価格が変動する新鮮なネタを仕入れているので表示できないというのが理由です。また卵焼きを「ギョク」と言ったり、すし屋独特の符丁があって、それを知らないと恥をかくのではないかとか、いろいろな要因もありました。
回転ずしの出現は、そうした不安を取り払いました。今では回転ずしが主流になる勢いですが
森沢さん ファミリーでも行ける安さ、好きなものを好きなだけ食べられる気軽さが幅広い層に支持されましたね。競争も激しくなり、新鮮なネタの提供や、すし屋さんと同じように注文したのを握ってくれるなど、かなり進化しています。すしが手軽に食べられるという意味では、大いに貢献したと思います。
回転ずしでは味わえない、すし屋さんの楽しみ方は?
森沢さん ワインを出すなど、すし屋もずい分様変わりしていますが、すし屋で食べる魅力は、なんと言っても、おやじさんとの会話でしょう。このスタイルは、日本の伝統的な食文化の1つだと思います。保存食として発展してきたすしの歴史や、ネタについてのうんちくを聞くのは楽しいものですよ。すし職人の講習会などで私は「すし職人はエンターテイナーになれ」と言っています。これからは「この店に来て良かった、楽しかった」と感じさせる店にしてほしいと思っているからです。
一方で、全国各地には郷土ずしと呼ばれる、ローカル色豊かなすしがあります
森沢さん 郷土ずしはその地域の人たちが生み出した郷土料理で、具材はもちろん、作り方や種類に郷土色がよく出ています。郷土ずしをみると、その地域の人がかつてどのような暮らしをしていたか知ることができるんです。
郷土ずしは、その地域の人々の保存食として生まれましたが、お正月などのお祝い事に食べられるケースが多いですね
森沢さん 多くは各地の家庭に伝わるごちそうとして定着してきました。だから、かつてその土地に住んでいた人たちが何をごちそうだと思っていたかが分かるんです。たまにしか食べられないから精いっぱいぜいたくをしたいという熱意が込められていますね。そんなことを考えてみるのも、楽しみ方の1つでしょう。
郷土ずしの多くはその土地や、その季節でしか食べられません
森沢さん 食べ歩いてみると、その地域特有の食べ方、楽しみ方があることが分かります。郷土ずしを食べることで、そこで暮らしてきた人々の食に対する思いを実感できるから、もっともっと幅広い人たちに食べてほしいと思います。
【取材協力】 つきじ喜代村 すしざんまい本陣
森沢弘雅(もりさわ・ひろまさ)
1937年(昭和12年)、韓国生まれ。出版社で長く飲食関係の雑誌、単行本の編集に携わり、現在は日本ホテルレストランコンサルタント協会専務理事、ホテルの建設計画や開業指導を行うヒューマンスペース代表取締役。