聴覚障がいに負けない「ろうアスリート」がいる。仙台大(宮城)職員の佐々木琢磨(26)は、聴覚障がい者の陸上短距離界で、世界の頂点を目指しているスプリンターだ。取材は筆談で応じ、質問回答を紙に記して伝えた。

佐々木は昨年9月に同大で行われた競技会に出場し、男子100メートルで10秒62を記録。日本ろう記録(10秒68)を34年ぶりに塗り替えた。「まずは自己ベスト更新を喜んだ。後になって記録更新に気づいた。34年ぶりに更新して、新しい歴史を作れてうれしかった」と振り返った。

盛岡聴覚支援学校高等部(岩手)在学中に、100メートルなどで全国優勝を経験。当時の100メートル自己ベストが、聴覚障がいがあるトップアスリートの記録に近かったことから、4年に1度開催される聴覚障がい者スポーツの祭典「デフリンピック」の出場を志すようになった。同大進学後は競技に打ち込む一方で、講義はノートテイカー(話の内容などを要約し、文字などで聴覚障がい者に伝える人)の力を借りて単位を取得。無事4年で卒業した。

同大在学中の13年に初のデフリンピック出場をかなえると、続く17年には400メートルリレーでアンカーを担い、同種目初の金メダル獲得に貢献した。次のデフリンピックは21年12月にブラジルで開催予定。「100メートル優勝と世界記録樹立」と目標を記し、強く意気込んだ。現在は新型コロナウイルスの影響で学内では練習ができず、7月までは実戦機会に臨めない状況だが、快足を磨き上げ、自身3度目の祭典で夢を実現させる。【相沢孔志】

◆佐々木琢磨(ささき・たくま)1993年(平5)11月30日生まれ、青森・五戸町出身。八戸ろう学校中学部で陸上競技を始める。盛岡聴覚支援学校高等部3年時に、全国ろう学校陸上競技大会で100メートル、200メートル、400メートルリレーで優勝。仙台大では4年時にアジア太平洋ろう者競技大会100メートル優勝、日本聴覚障害者陸上競技選手権100メートル優勝など。卒業後は同大職員となり、16、18年の日本聴覚障害者陸上競技選手権100メートル優勝など。自己ベストは100メートルが10秒62、200メートルが22秒44。167センチ、67キロ。家族は両親と兄2人。好きな食べ物はラーメンと焼き肉。