男子100メートル予選が行われ、サニブラウン・ハキーム(23=タンブルウィードTC)が9秒98(向かい風0・3メートル)の組1着、全体6位で準決勝に進出した。9秒台をマークするのは、当時の日本記録を更新した19年6月以来3度目となった。

準決勝は日本時間17日午前10時開始。日本勢では32年ロサンゼルス五輪の「暁の超特急」吉岡隆徳以来、90年ぶりとなる世界大会決勝進出へ「歴史を変えたい」と意欲を示した。

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またしても、歴史の扉をこじ開けた。9秒98。サニブラウンが、日本勢で初めて、世界選手権の大舞台でついに9秒台を刻んだ。

抜群の反応だった。号砲の反応を表すリアクションタイムは、準決勝進出者24人で3番目に速い0・112秒。「やっといい感じで出られた。コーチにはしっかりピストルに反応して出て、40メートルからいい感じでまとめてこいと言われた。60メートル過ぎから、いい感じに力が抜けて走れた」。17年ロンドン、19年ドーハ大会では、スタートに失敗して準決勝敗退。悪夢を払拭(ふっしょく)した。

全体6位の好タイムは、同種目の日本人では五輪、世界選手権で最速となる。速報タイムを見ても、特別な感動はない。「タイムは気にしていない。『9秒台、出たんだ』くらいの感覚だった」。10秒の壁を破るのは自身3度目。向かい風(0・3メートル)、世界大会の大舞台では初で価値ある9秒台となった。米フロリダ州の所属クラブでは、9秒76の自己ベストを持つブロメル(米国)らと練習をともにする。記録への価値観も、世界水準となっている。

万全な状態で走れる喜びを感じている。昨年度はヘルニアによる腰痛に苦しみ、200メートルに出場した東京五輪も予選敗退に終わるなど、不完全燃焼だった。米国陸上界の聖地と呼ばれるヘイワールドフィールド。「ものすごく楽しいですね。久々に万全な状態で世界大会に出られている」。無邪気な笑顔が、充実ぶりをうかがわせた。

予選ながら9秒79をマークしたカーリーら、地元開催の米国勢を中心に強豪ぞろいの花形種目。「こんなレベルの高い試合はないんじゃないか。9秒90(台)でも落ちるかもしれないが『ここにいたんだよ』じゃなくて、しっかりいい結果を残せたらいい」。思い出作りで終わるつもりはない。

日本時間17日午前10時に始まる準決勝を突破すれば、日本勢では32年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来、世界大会では90年ぶり。ブロメルやヨハン・ブレイク(ジャマイカ)ら強敵と同組に入ったが、今季ベストでは8人中3番目。快挙も射程圏内にある。

「歴史をつくりにきている。もっともっと上を狙っていきたい。明日、過去の自分を超えて、またさらに前に進んで、前に歩ければいい」

7年前の15年北京大会。16歳172日の世界最年少で200メートルの予選に出場し、準決勝に進出して世界を驚かせた。100メートルのファイナリストに名を連ねれば、それ以上のビッグサプライズになる。【佐藤礼征】

◆サニブラウン・ハキーム 1999年(平11)3月6日、福岡県生まれ。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、小3で陸上を始める。15年7月世界ユース選手権100メートル、200メートル2冠。同年世界選手権北京大会は200メートルに同種目世界最年少16歳で出場し準決勝進出。東京・城西高卒業後、オランダを拠点に練習し17年秋フロリダ大進学、拠点を米国に。20年7月に休学し、現所属先に移した。190センチ、83キロ。

◆吉岡隆徳(よしおか・たかよし)1909年(明42)6月20日、島根県生まれ。西浜尋常小学校で競技を始める。杵築中学校-島根師範学校-東京高等師範学校に進学。32年ロサンゼルス五輪男子100メートルで決勝に進出。10秒8で6位入賞。東洋人初の入賞に「暁の超特急」と呼ばれた。35年に10秒3の世界タイ記録を3度マーク。五輪決勝進出、世界記録保持はともに日本で唯一。36年ベルリン五輪は2次予選敗退。指導者として64年東京五輪で女子80メートル障害5位の依田郁子、飯島秀雄らを育てた。84年5月に74歳で死去。

<サニブラウンの世界選手権のスタートミス>

◆17年ロンドン大会 男子100メートル準決勝で、スタートから4歩目で右足のバランスを崩す。10秒28で2組7着に終わり敗退した。

◆19年ドーハ大会 男子100メートル準決勝で、号砲に1人だけ完全にワンテンポ遅れる。反応速度は組で最も遅い0秒206。結局10秒15の1組5着で敗退した。