男子400メートルリレー決勝で、米国は1、2走で思ったよりも主導権がとれなかった。カナダと予想以上に接戦で来た。米国のアンカーからすれば、もう少し前でバトンを受けられると思っただろう。飛び出しで気持ちが入りすぎた。3走との間であれだけバトンが空をきってしまうとなかなか厳しい。しかも持ったところがバトンの真ん中あたり。アンカーにとってはつらい条件が重なった。

バトンは端で持つ方が腕を振りやすい。ペットボトルを持って腕を振ろうとした場合、真ん中を持った時と、端を持った時で振りやすさが変わってくる。

米国は、歴史的にバトンがうまくいかないことが重しになったのではないか。2走のノア・ライルズはスタートを待つ間に、バトンを受けとる、左手を出す動作を何度もやっていた。200メートルを19秒31(金メダル)で走る選手だが、大学生レベルでもあれほど、左手を挙げる動作を繰り返さない。それをしきりにやっていた。もっと普通にやれればよかった。過去のことは現在の選手には関係ないのだが、これまでの歴史が邪魔をしたといえるだろう。

日本は普通にバトンが渡れば、決勝に残れた(予選で失格)。今回は走れなかったサニブラウン、小池のところにリザーブの選手をあてた。流れをつくるなら調子のいい選手で前を固めてもよかったかもしれない。日本のリレーの歴史を見ると、200メートルを走れる選手が2走を走っていた。2走は距離が長く、3走とのバトンゾーンで苦しくなることがある。ただこれは結果論なので、選手は誰も悪くない。

今はいろんなパターンを試している時期だろうが、24年パリ五輪はあっという間にくる。カナダの優勝タイムは37秒48で、日本記録は37秒43(19年世界選手権ドーハ大会)。悲観的になることはないが、それぞれの目的に合わせて、選手がいま一度、リレーの位置づけを考えることもいいだろう。(男子100メートル元日本記録保持者)