女子中長距離の田中希実(24=ニューバランス)が、新星2人との初対決をパリ五輪への糧とする。

2種目に出場し、800メートルが2分6秒08、1500メートルが4分7秒98でともに全体2位。本職ではない800メートルではサッカー日本代表MF久保建英のいとこの久保凛(16=東大阪大敬愛高)に先着を許したが、1500メートルではドルーリー朱瑛里(16=岡山・津山高)の前で存在感を示した。高校2年の2人も“ライバル”と見立て、自らの力に変える。

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田中は誰と走ろうとも、真摯(しんし)にレースと向き合っている。

最初の種目となった800メートル。徐々に順位を上げ、500メートル付近で先頭に立つも、最後の直線で久保に抜き返された。8歳後輩に0秒73差で敗れると、思わず顔をしかめた。

昨季は800メートルの5試合ですべて2分5秒以内をマークしたが、この日は届かず。1500メートルこそ日本人トップとなったが「800メートルで戦える力をつけないと、1500メートルでも戦えない」と厳しく言った。

その心の奥には「年齢は意識していない。みんなが対等なライバル」との思いがある。

21年東京五輪では1500メートル8位入賞。22年世界選手権では800メートル、5000メートルも加えた異例の3種目に挑戦し、昨夏の同選手権では5000メートルで8位に入った。

日本の女子中長距離を引っ張る存在とみられることも増えたが、当人にその強い自覚はない。「トップ選手の意識はない。そう思われることに戸惑いがある」と打ち明ける。

その謙虚な姿勢があるからこそ、後輩の姿から刺激を受け取ることができる。「私には高校生の頃の感覚が残っている」。久保やドルーリーらが必死に食らいつく姿勢に、自身を重ね合わせた。「根本は陸上が好きで、より速く走りたいと思っている。状態が整わなければイライラする。みんな同じ」。原点に立ち返るヒントを得た。

パリでは1500メートルと5000メートルの2種目での活躍を目指す。タイムや順位を狙いつつ、走る喜びも体現していく。「出ることが楽しいという状態へ持っていきたい」。

“ライバル”から学び得たことを、五輪の舞台で示す。【藤塚大輔】

○…昨夏の全国高校総体で800メートルを制した久保が、同種目で田中に競り勝った。「こういう舞台だからこそチャレンジ精神を持とう」と、スタート直後から先頭でレースをけん引。終盤で田中を抜き返した。自己ベストまで0秒22差に迫る2分5秒35を記録し「ラストのスピードを上げる練習が生かせた」と胸を張った。田中との初対戦に「憧れを捨てようと思ったんですけど…できなかった」と苦笑。今季目標に全国高校総体連覇を掲げ「私も田中選手のようになれるように努力したい」と思い描いた。

○…ドルーリーは反省が先に立った。中盤以降で先頭集団から大きく離され、全体13位の4分25秒45だった。「ここ3週間くらいは良い練習が積めていた。体調は万全だったが、精神面で集中しきれていなかった」。田中とは1月の全国都道府県対抗女子駅伝で同じ2区を走ったが、トラックレースでは初対決。「しっかり戦える力はあったと思う。次は自分の走りに集中したい」と成長の糧とする。