陸上男子100メートルの桐生祥秀(29=日本生命)が3日、山梨県富士北麓公園陸上競技場で富士北麓ワールドトライアルに出場し、9秒99(追い風1・5メートル)をマークした。2017年に日本人初の9秒台となる9秒98を記録して以来、8年ぶり2度目の大台。今季日本人最速タイムで9月の世界選手権東京大会の参加標準記録(10秒00)を突破し、19年ドーハ大会以来3大会ぶりの代表が確実となった。
男子100メートルといえば、7月下旬の全国高校総体(インターハイ)にて石川・星稜高2年で16歳の清水空跳(そらと)がU18世界新記録の10秒00を出したばかり。桐生が京都・洛南高3年時だった13年に樹立した高校日本記録も0秒01更新し、大きな話題となっている。
桐生は清水の活躍をどう受け止めたのだろうか。
レース後の囲み取材で率直な思いを口にした。「記録は誰かに破られるものだと思っています。自分でも『もう破られたのか』という驚きがありました」。まずは目を細めながら、清水をたたえた。
ただ、そこから続けたのは「比べないでほしい」という真摯な思いだった。
「タイム以上の価値を、僕も清水くんも出していきたいです。今日、生で9秒台を見た観客の方は、記録以上に記憶に残ると思います。清水くんもインターハイでああいうタイムを出して、記録が盛り上がっている面もありますが、それを見に来た方にとってその時の気持ちは、タイムで比較できないくらい心に残るものだと思います。それは誰かと比べるものではない。桐生祥秀ができることと、清水くんができることは違うと思う。お互い切磋琢磨(せっさたくま)しながらやっていきたいです」
桐生祥秀ができることと、清水くんができることは違う-。
この点について「しゃべったことがない選手についてどうこう(言いたくない)」と強調した上、実感を込めながらこう重ねた。
「僕は高校時代、それが嫌だったんです。走ったことがない選手に自分の走りを分析されたり。いっぱい言われて。今はSNSもあって、清水くんのもとへもたくさん来ていると思うんです。『桐生祥秀との違い』だったり。でもそんなものにとらわれないでほしい。僕じゃなくて、世界には何十人も9秒台の選手がいます。そういうところを見据えてほしい。それに今は『誰が9秒台を出すか』というフェーズではなくなってきている。気持ちの持ちようも、僕が高校のころと、今の清水くんとでは、違ってきていますから」
今は人と人とを比べ、誰もがSNS上で簡単に批評を発信することが可能になった。それは「いいね」や「リポスト」といった形で瞬く間に拡散されていく。スマートフォン1つあれば、本人へコメントを届けることだってできる。
もちろん、競技普及やファンの理解を促すような健全な評論はあってしかるべきだろう。ただ、高校時代から世間の期待を背負い続けてきた桐生の言葉は重く響く。
「誰かと比べるものではない」「そんなものにとらわれないでほしい」
それは清水だけでなく、アスリートを見守る全ての人へ向けたメッセージでもあるだろう。【藤塚大輔】

