フィギュアは直接対決で勝敗を決するのではなく、第三者が採点をして優劣を判断する。それだけに、より良い採点法を巡り、何度も修正が行われてきた。その最大の転機となったのが、02年ソルトレークシティー五輪のペアで起きた不正採点スキャンダルだ。

 ショートプログラム(SP)で1位のロシア組と2位のカナダ組は、2月11日に行われたフリーで大接戦となった。元国際審判で、その9人のジャッジの1人だった杉田秀男氏(82)は「どっちが勝ってもおかしくない素晴らしい演技だった」と振り返る。

 しかし、ロシア組は両足着氷があり、杉田氏は0・1点差でカナダを上位につけた。観客も大声援でカナダを支持したが、9人のジャッジのうち5人がロシアに1位をつけ、ロシアが金、カナダが銀。会場は騒然となった。ただ、杉田氏は「反響は大きかったが、おかしいというのは、その時点ではなかった」と話す。

 空気が変わったのが、杉田氏によると、会場から帰るバスの中だという。フランスのルゴーニュ審判が、同乗した国際スケート連盟(ISU)技術委員から「なぜロシアを上位にしたの」と問われた。すると、同審判は泣きだしたという。「何が何だか分からなかった」(杉田氏)。

 翌日の12日、レフェリーがISUに報告書を提出するために、審判全員が出席する会議が開かれた。その席で杉田氏は、ルゴーニュ審判が「私はISU審判だけど、フランスの審判でもある」と話したのを聞いた。15日には、フランス連盟会長が「彼女は圧力を受けていた。操作されていた」と、暗に裏取引があったことを認める発言をした。騒動は一気に世界中に拡大し、五輪史上まれに見る不正疑惑へと発展していった。【吉松忠弘】

ペアフリーで演技するロシアのエレーナ・ベレズナヤ、アントン・シハルリゼ組(AP=共同)
ペアフリーで演技するロシアのエレーナ・ベレズナヤ、アントン・シハルリゼ組(AP=共同)