北京オリンピックが閉幕し、ようやくテレビにかじりつく生活から日常へと戻った。

今大会でも、さまざまなドラマが生まれ、たくさんの選手から勇気や感動をもらった。

4年に1度の舞台。どの選手もわが身を削る想いでこの大会に臨んだに違いない。たくさんの困難を乗り越え、努力してきたことが報われた選手もいれば、報われなかった選手もいる。それぞれ違った想いの詰まった大会になっただろう。

冬のオリンピックは、夏のオリンピックに比べ競技数が少ない。そのため、どの競技もじっくりと観ることができた。さらには、選手1人1人の特徴や個性にも目を向けられ、とても面白かった。

しかし、今大会では疑問に思うような出来事がいくつもみられた。スノーボード男子ハーフパイプでの“ミスジャッジ”や、スキージャンプのウエアでの失格。みなさんの心にもまだ鮮明に残っているだろう。そして、特にメディアでも大きく取り上げられていたフィギュアスケート女子のカミラ・ワリエワ選手(15=ロシア)のドーピング問題。この件については、閉幕した今でも大きな疑問が残る。

私が世界の舞台で戦い始めたのは、ワリエワ選手と同じ15歳だった。国の代表として選ばれるようになれば、全ての選手がドーピング検査の対象となる。24時間365日の居場所情報を提出し、居場所が変わる場合はそのつど変更しておかなくてはならない。なぜなら、抜き打ちでドーピング検査があるからだ。

WADA(世界反ドーピング機関)やJADA(日本反ドーピング機関)の検査員の人たちは、選手が提出した居場所情報をもとに、世界中どこへでも検査に訪れる。そして、選手は検査を拒否することは出来ない。もし、その時に選手が申告した場にいない状況が3度続いた場合、大会出場停止処分などのペナルティーが課せられる。

それほど、スポーツ界でのドーピングは、みんなが平等に力を発揮するために守らなければいけない絶対的なルールなのだ。

しかし、15歳の時にその事を深く理解し、自分でしっかりと管理できていたかと言えば、そうではなかった。コーチや周りの大人たちのサポートが必要不可欠だった。市販薬ひとつ飲むにしても、どれが禁止薬物なのか分からず、専門家に毎回確認してから飲むようにしていた。

そういった自分の経験からも、今回のドーピング問題に関しては、選手だけを責めるのは無理があると感じる。オリンピックでメダルを獲得できるようなレベルであれば、これまでに何度もドーピング検査を受けているはずだからだ。経験豊富なコーチやスタッフが付いていながら、なぜ今回のような問題が起きてしまったのか。

彼女はまだ15歳。周囲の大人たちも気にかけて見てあげなくてはいけない年齢でもある。

オリンピックという大舞台に立つだけでも、かなりの精神力が必要だ。そこに、世界中から大きく取り上げられてしまったドーピング疑惑。彼女の精神的ストレスは計り知れないほどのものだっただろう。真実が何なのかは分からないが、彼女の表情や演技をしている姿は、見ているこちらもとても辛かった。特にフィギュアスケートは選手寿命の短いスポーツの1つ。そしてロシアは、次々と下からライバルが現れる激戦国でもある。4年後にリベンジというのは難しいかもしれない。このような人生をも変えてしまう問題は、2度と起きてほしくないと感じた。

しかし、今回の件に限らず、選手が知らないうちにドーピングしてしまう可能性はある。現役選手たちは人ごととは思わず、いま一度、しっかりとドーピングについて学ぶキッカケになったのではないだろうか。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)