先日、渋谷区で開催された「ボッチャ渋谷カップ」に参加した。

ボッチャのルールは、皆さんの記憶にも新しい「カーリング」によく似ている。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつのボールをいかに近づけられるかを競う競技だ。


ボッチャ渋谷カップに出場したチーム「スポーツをチカラに。」
ボッチャ渋谷カップに出場したチーム「スポーツをチカラに。」

誘ってくれたのは、スキーモーグルで3度のオリンピックに出場している伊藤みきちゃん。飛び込みとモーグルは季節が真逆のスポーツのため、現役中にはなかなか知り合う機会は少ない。しかし、共通の知人の紹介でJISS(国立スポーツ科学センター)で出会った。同級生ということもあり、すぐに意気投合。かれこれ10年以上の付き合いになる。そして、もう1人のアスリートは青木愛ちゃん(アーティスティックスイミング元日本代表)。愛ちゃんと私は2008年北京オリンピックに共に出場している。その後、仕事やプライベートでも会う機会があったが、今回久しぶりの再会だった。

3人ともボッチャはほぼ未経験者。私とみきちゃんに関しては、ルールすらよく理解していなかったが、優勝する気だけは満々だった。そんな2人を見て、少しお姉さんの愛ちゃんは冷静な視線を送っていた。

さらに、私たちのチームには、一番の戦力となる渋谷区推薦のボッチャ選手、高橋克成選手が助っ人として加わった。

選手間で始まる前の温度差はあったが、ボッチャはチーム戦。「スポーツをチカラに。」というチーム名で大会に挑戦した。30チームを8組に分けてリーグ戦を行い、各組1位が決勝トーナメントに進出するルールだ。

初めは「楽しめればいいな」と思っていたという愛ちゃんも、いざ試合が始まると真剣そのもの。3人とも厳しい勝負の世界で戦ってきた記憶がみるみるとよみがえった。1戦目からアスリート魂に火がつき、1球1球に渾身(こんしん)の力がこもった。試合の合間の空き時間は全て練習にあてた。さまざまなシチュエーションを想定し、難しい配置は何度も練習を繰り返した。



そのかいあって、なんと予選リーグでは全勝での勝ち上がり。すがすがしく予選を終え、準々決勝へとコマを進めた。準々決勝の相手はボッチャを習っている小学生チームだった。強敵だったが、ここもチームワークで打破。いい大人が子供たちを相手に本気になってしまい、何となく後ろめたい気もしたが、「勝負の世界で手を抜く事は失礼だ」と自分に言い聞かせ、胸を張って準決勝へと進んだ。

準決勝は昨年の優勝チームだった。序盤はこちらが優位な状況のように思えたが、やはりそこはプロ。最後は圧倒的な強さを見せられ、私たちは初黒星となった。最後の試合は3位決定戦だった。メダルのかかった大事な一戦。ここは絶対に負けられないというプレッシャーが、元アスリートの心に再度火をつけた。相手は見るからに熟練者。ここではとにかく「今日1日の成果を発揮するしかない」という意気込みで戦った。そして見事勝利。ほぼ未経験者の私たちを含む「スポーツをチカラに。」チームは表彰台へ上がった。


銅メダルを手に笑顔の左から青木愛さん、伊藤みきさん、筆者
銅メダルを手に笑顔の左から青木愛さん、伊藤みきさん、筆者

目標としていた優勝には届かなかったものの、初大会で3位は上出来だろう。これも高橋さんがチームにいてくれたことが大きな勝因である。私たちのミスショットを、高橋さんの確実なショットによって何度も助けられたからだ。

チーム戦のスポーツは学校体育以来だったが、久々に勝負の喜びや悔しさをチームで分かち合うことができた。そしてボッチャというスポーツを知り、スポーツの楽しさを心から感じた1日だった。現役を引退した今は、ただスポーツを楽しむことができる。今回、観戦するのと実際にやってみるのとでは全く感じ方や学びが違うことを知った。また機会があれば、ボッチャの大会でのリベンジにも挑戦したいし、他にもさまざまなスポーツを体験したいと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)