部活動を俯瞰(ふかん)する。ワークショップ「STEAM バスケットボール(中学編)」が1月17日、東京都港区の高松中バスケットボール部員26人に対して行われた。経済産業省「未来の教室」の実証事業として、株式会社STEAM Sports Laboratoryが監修。スポーツ界のデータ活用事例を学び、生徒たちは自チームデータを分析。傾向から課題を議論し、実戦に取り入れたい戦略を決めた。

バスケの特徴考える

中央大理工学部数学科の酒折文武准教授は「スポーツとデータ活用」について話した。スポーツの世界でデータ革命が起こっている。科学技術の発展で、さまざまなデータの収集と蓄積、活用が進む。

「スポーツとデータ活用」について話した中央大理工学部数学科の酒折文武准教授(左)
「スポーツとデータ活用」について話した中央大理工学部数学科の酒折文武准教授(左)

サッカーW杯ロシア大会では、試合中の選手やボールの動きをリアルタイムで分析できるタブレット端末を提供。監督らはデータをもとに采配できるようになった。ラグビー日本代表は練習時、小型無人機ドローンが上空から撮影した映像を細かく分析。現場ですぐに確認できるようにして、スクラムなどの精度を高めた。

各競技の事例紹介後、バスケットボールの特徴について生徒たちに考えさせた。「特徴は両チームの攻撃回数がほぼ同数ということ。それはシュートクロック(24秒ルール)があるからです。ボールをキープし続けることがないので、マイボールのときはいかに得点確率の高い攻撃をするか、相手には確率の低いプレーをさせるか、なんです。みなさんに知ってほしいことはデータを用いることの重要性。とくにデータから課題を発見できるようになりましょう」と今ワークショップの目的を語った。

次は「シュートデータを用いた分析事例」を、Bリーグなどのデータ分析を行うデータスタジアム株式会社の柳鳥亮氏が担当した。

シュートデータを用いた分析事例」について話すデータスタジアムの柳鳥亮氏
シュートデータを用いた分析事例」について話すデータスタジアムの柳鳥亮氏

事例はB1新潟アルビレックスBB。過去3年間に3エリア(<1>ペイント内<2>ミドル<3>3P)から放たれたシュートの割合をシーズンごとに示した。そして生徒たちに、新潟がどのように戦略を変えていったか、なぜその戦略をとったのかを考えさせた。生徒からは「ミドルの割合が下がっている」「3Pが増えている」などの意見があがった。

得点率が高い攻撃をすれば勝利につながる。それを表すのが得点期待値だ。1回のシュートから期待できる得点で、計算式は「シュート成功率×そのシュートが成功した時に入る得点」。エリア別に計算させると、新潟がミドルを減らし、期待値の高いペイント内と3Pを増やしたことが分かる。それがチームの勝率とも比例していた。柳鳥氏は「みなさんのチームがどんな傾向があるか、それを調べるにはどんなデータが必要か考えてみましょう」と締めた。

練習から変わる期待

チーム分析担当のジャズピアニストで数学者の中島さち子氏(中央)
チーム分析担当のジャズピアニストで数学者の中島さち子氏(中央)

最後は、自分たちのチーム分析だ。国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島さち子氏が担当した。練習試合でとった対戦相手も含めたシュートのデータから成功率や得点期待値を算出させた。

高松中の生徒たちは相手と自分のチームを比較して、気づいたことやその理由を議論。「3Pの得点期待値にばらつきがある」「ペイント内の試投率は安定しているが成功率が低い」「正確にポジションを決めてないからばらつきが出るのでは」などの意見が出た。

高松中の生徒たちは自分たちのデータを計算して書き込んだ
高松中の生徒たちは自分たちのデータを計算して書き込んだ

まとめはチームとして試したいことを話し合った。「練習から緊張感を持つ」「ペイント内のシュートを確実に入れるため丁寧に打つ」「3Pの本数を増やしミドルは減らす」「試合のデータをとって共有する」。

中島氏は「データを見てなぜだろうと考えたり議論することが大切です」。高松中の小宮山貴教諭は「データをもとに考えることで意識が変わるし、練習から改善されると思います」と話した。【豊本亘】

◆株式会社STEAM Sports Laboratory 2018年11月設立。山羽教文代表取締役。本社は東京都港区南青山。子どもたちの「主体的・対話的かつ深い学び」を引き出すために、スポーツシーンにおける問題・課題を教材にした「新たな学びの場」の創出を目指している。

(2020年2月23日本紙掲載)