毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。最終回は、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター測定器研究部の田中香津生(かづお)助教です。スポーツで情報通信技術を使って分析することで“センス”という概念がなくなると言います。鍵を握る「プログラミング的思考力」について聞きました。また、この思考力を磨くプログラム「リバーシ(オセロ)AI」を期間限定で無料開放。親子でお楽しみください!【聞き手=豊本亘】

田中香津生氏
田中香津生氏

考えるクセを養成

-プログラミング教育についてやワークショップで感じたこと

私が子どものころと時代の違いを感じます。私がプログラミングに触れた中学3年当時は、パソコンが好きでオタク活動の延長でやっていました。今はいい意味で大衆化し、大人の世界でもやってることがステータスになった。

プログラミング教育が、受け入れられる雰囲気ができて、学校で一定のリテラシーやスキルを身につけるのが1歩目。次は、子どもたちがプログラミングをツールとして使い、活動できる場や機会がどんどん増えていくことだと思っています。子どもがやりたいことや興味があることにつなげるのが、外部の我々だったりの役割。ワークショップでも意識しています。

-子どもの能力を伸ばすために必要なことは

2012年から14年まで東京・広尾学園高で、教員として1、2年生に物理を教えていました。私は物理とは、問題に対してどう道筋をつくるかだと思っています。でも、公式を覚えて当てはめるってなりがちです。これでは課題解決から離れてしまう。教員当時は、高校生に教えなきゃいけないことを授業の半分の時間で終わらせて、残りは考えるくせを養成する時間にしていました。4月から小学校で導入されるプログラミング教育に近いのですが、この課題を解くための道筋を考える「プログラミング的思考力」は大切だと思います。

-スポーツ×プログラミング教育について

スポーツでICT(情報通信技術)を使う意味は「センスという概念をなくすこと」だと思っています。例えば、バレーボールのスパイク練習。はじめてのときは手本を見てまねるのですが、センスのいい子って早い段階で手本と同じ動きができる。限られた情報で動きをまねたり、模倣するのが上手。そういう子がセンスがあるって言われます。これは体育や部活動、市民スポーツではすごく有利なんです。すぐにうまくなるから楽しくなって、練習を重ねるとさらにうまくなるという相乗効果もあります。

そのセンスの差を埋める可能性があるのが、ICTの力だと思っています。フォームを動画で撮影して自分で分析したり、ICTが教えてくれたり。僕がバレーボールをやっていた学生時代、おかしいと言われたフォームを直したつもりなのに、また怒られての繰り返しでした。あんなに怒られたのに、なぜフォームを考えるのに動画を撮らなかったのか。普通に後悔しています(笑い)。

真上から全体俯瞰

サッカーだと、司令塔は真上からピッチ全体が見えているようなプレーをします。それは、少ない情報で上からの情報を再構築できるからです。一般の人は今までできなかったんだけど、プレーごと真上から見ることができたら情報の差は埋められます。市民レベルではフィジカルはともかく、センスの差は埋まり、スポーツをもっと楽しめるようになると思います。

これはある程度、立証されています。理由は2つあります。1つはSTEAM Sports Laboratoryのワークショップです。今まで運動にコンプレックスを持っていた子どもが楽しく動けるようになり、動画分析で今までどう議論したらいいかが分からなかった子どもたちが、急に発言するようになりました。顕著なのは学校体育で、手応えがあります。

もう1つは、プロスポーツでも同じ悩みを抱えていると知ったからです。監督と選手のコミュニケーションが、俯瞰(ふかん)する視点のレベル差でスムーズにいかないケースがあるようです。あるプロの監督からはICTを使って真上からの動画を示しながら指示を出せれば、この業界は変わると言われました。(おわり)

◆田中香津生(たなか・かづお)10年に東京大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科で12年に修士号、広尾学園中学校高等学校教員、理化学研究所で大学院生リサーチ・アソシエイトを経て、16年に博士号を取得。研究テーマはエキゾチック原子を用いた基礎物理実験。

▼田中氏はワークショップ「オセロ×プログラミング」を開催している。マインドスポーツを代表するオセロを、実際にプレーしながら、頭の中で考えていた作戦を言葉にして、プログラミングを作ることに挑戦する。グループでオセロAIをつくり、最後にはそれぞれを対戦させて最強AIを競う内容だ。

今回はプログラム「リバーシ(オセロ)AI」を4月30日まで無料開放。親子で楽しんでみましょう!

田中氏 強いオセロAIを作るためには、どういうことをさせたいか、明確にしないと強くはなりません。自分の思考を言語化することが大事です。やり方は、サイトの「使い方」からご覧ください。

URL https://pando.life/steamslab/article/11815