スポーツとスポンサーはとても関係が深くなる。ほとんどの競技団体にはスポンサー企業があり、またスポーツの世界大会もスポンサーがつくことで開催できている。

 普通アスリートやスポーツの団体はスポンサーに関して、様々なことを配慮する。飲料であれば飲料メーカーのスポンサーに配慮し、選手にはそのスポンサーのドリンクしか飲ませないようにする。また同じ産業の他の会社とは通常契約しない。

 そうやってスポンサー企業に最大限配慮をするのだが、あるチームから、最近それがわからなくなったと聞いた。どういうことかというと、スポンサー企業が何の産業に属するかがわからなくなったので何に配慮すればいいのかが読めなくなったというのだ。

 昔は、企業はある産業に特化している場合が多く(違う企業もあると思うが)、整理が簡単だった。車メーカーが飲料を売ることはなかったし、小売業もメーカーになることはなかった。だから各カテゴリーにスポンサーをつけて、そこに競合を入れなければ整理ができた。

 ところが、今はそんな簡単に産業が整理できない。ネット企業だと思っていたら、いつの間にか倉庫や、運送に入り込んで来るし、事業会社が投資会社の側面を持つこともよくある。新しい産業が生まれたり、産業ごとなくなったりする。企業はいつも何かの産業に特化したあくまで一企業であるという前提で考えられていた仕組みが、企業というより群のような考え方をする時代になり、うまくそぐわなくなっているように感じる。

 もちろん契約で「この企業とはこのカテゴリーだけのスポンサーです」と区切ることは可能だが、それでもやはり心情的に完全には区切れないことも多い。チームなどの場合は数年間、長ければそれ以上、一緒にお互いのブランドを高め合っていくので、より関係性が密になっていく。

 昔ドイツの選手に話を聞いた時、自分のチームのコンセプトは3つあり(確かspeed、smartと他の何かだった気がするが)、その3つに共感して企業がスポンサーをしてくれているんだと言われたことがあった。本当かどうかは分からないが、少なくとも一アスリートがそれを語ることが素晴らしいと思った。

 私は、将来は「この産業が空いているからスポンサーを」というのではなく、「チームと同じ地域だから地域の企業に」というのでもなく、「そもそも何のためにチームやアスリートは存在するのか」という目的やビジョンを明文化し、それに共感した企業とパートナーを組むようになるのではないかと考えている。手段は変わるが、理念は変わらないので、理念で合意すれば両者にとって結局いいことが多いのだと思う。

 そもそもスポンサー側から見て、結局スポーツから具体的にもらっているリターンは何なのかがわからないところがあった。スポンサーというよりひたすらに応援するタニマチ的な側面が強かったように思う。一方、ちゃんと理念で合意すればパートナーになり、スポーツはむしろスポークスマンや理念の体現者として企業を応援できるようになる。特に力む必要もない。信じていることを実行すればいいだけだ。

 今はSNSにより、選手が日常何を飲んでいるか、何に乗っているか、何を大事にしているかが見えるようになった。どうせ隠せないんだから、むしろ本当のところで組める相手と組む方が両者にとっていいのだと思う。

 スポーツを超えたビジョンがないチームや選手にとっては大変な時代になるが、一方で、思想のあるチームや選手にとってはたくさんの選択肢が生まれる。考え方によっては本質的なパートナーシップ時代の幕開けとも言えるのではないだろうか。(為末大)