体操の世界選手権の床で金メダルを獲得したフィリピンのカルロス・ユーロ(中央)(AP)
体操の世界選手権の床で金メダルを獲得したフィリピンのカルロス・ユーロ(中央)(AP)

体操の世界選手権で日本を拠点にするカルロス・ユーロ(19)がフィリピン史上初の金メダルを獲得した。

昨年3位の床運動で伸身ムーンサルトを入れ、跳躍技を6つから7つに増やす高難度の演技を成功させて15・500点。五輪と世界選手権を通じ、体操競技初の優勝を飾った。13年に日本協会の派遣で同国で指導し、才能を発見したのが釘宮宗大コーチ。「マジか!」と偉業に驚き、感極まっていた。

東京での2LDKでの共同生活は3年目。いまも「文化の違い」に戸惑うことが多々だという。最大の不思議は「止まる」ことだった。「練習中に気持ちが落ちると、やめてしまうんです」。突然言葉も聞かなくなり、動きも止まる。いまでもなぜの明確な答えはないが、二人三脚の最大の改善点はそれにあがらうすべを探すことだった。

「今を生きる人たちなんですかね」。決して裕福な国ではない。1日を生き抜くことに必死になり、入ったお金はその日に使ってしまう人も多いという。そんな刹那的な感覚が、ユーロにもあるのか。将来の目標から逆算が出来なければ、気持ちを奮い立たす源がない。それを何とか変えようと励んできた。

「時にはきつく言ったり。工夫しています」。あえて「何のために日本に来たんだ」と強めにたきつけたり。考える時間を与え、反応を引き出す。共同生活、「毎日だときつい」と週3日の自炊担当もし、3年の歩みは絆を太くした。コンビニでレアチーズケーキをためらいなく食べた姿はいまはない。週1回ほどになったお菓子は、東京オリンピック(五輪)で金の目標を考えられるようになった証しだろう。

フィリピンでは五輪で金メダリストはいない。政権からも期待は高いという。国の英雄はボクシングの7階級王者パッキャオだが、金はまた違ったインパクトをもたらす。「まだ自信はないけど、ベストを尽くせるように努力したい」と日本語で答えるユーロの横で、釘宮コーチは目を赤くして柔らかに笑っていた。

世界選手権で床の演技をするカルロス・ユーロ(ロイター)
世界選手権で床の演技をするカルロス・ユーロ(ロイター)