現ルールでは、女子はジャンプ、スピンなどすべてを完璧にまとめた演技が評価される方向にある。成功率の低い基礎点8・5点の3回転半を跳ぶより、1度で10点以上を取れる連続技を磨いた方が勝つためには賢明だ。それでも最後の全日本選手権では、トリプルアクセルにこだわった。指導を始めた10年9月から2年間、基礎を見直すため自粛を促していた佐藤信夫コーチ(75)でも、止めることができなかった。「彼女の気持ち、やる気を優先させた」。膝痛を抱え、体力も戻りにくくなった26歳の浅田にとって、最後はこのジャンプに挑むことが心の支えだった。

 12日の会見では、トリプルアクセルを「自分の強さではあったと思いますけど、その分、悩んだことも多かった」と話した。このジャンプに声をかけるとすれば、というユニークな質問に「何でもっと簡単に跳ばせてくれないの」と笑いながら愚痴った。最も愛し、苦しめられたジャンプだった。【高場泉穂】

 ◆トリプルアクセル アクセルジャンプは、6種類のジャンプの中で、ただ1つだけ前向きに踏み切る。着氷は後ろ向きのため、ほかのジャンプより半回転多くなるため、難易度は最も高い。3回転半を女子で初めて成功したのは88年NHK杯での伊藤みどり。それ以降、中野友加里が02年全日本予選で成功するまで約10年かかった。基礎点は8・5点。