愚直に前に出て力強く攻める。男子組手決勝で渡辺大輔(27=日本空手松涛連盟)はその持ち味を少し控えた。

 何しろ世界王者の荒賀龍太郎(27=荒賀道場)には大学1年の初対戦以来「数え切れないくらい対戦して勝ったことがない」。しかも75キロ級の渡辺に対して、相手は1階級上の84キロ級で、身長は15センチほど高い。階級無差別の全日本では「これまで遠い距離から前に出て中途半端になった。今日は狙った技でポイントを取るやり方でした」。

 結果的にこの戦略が奏功した。カウンターの突きで先制ポイントを奪った。戦い慣れた相手のいつもと勝手が違う動きに、世界王者はどこかやりにくそうだった。ポイントは2-2で試合終了したが、勝者は先にポイントを挙げた渡辺だった。「今回は練習時間も1日4~5時間しっかりやってきた。試合中も落ち着いて見極めることができました」と、猛練習に裏付けされた自信も、“波乱”といわれる勝利を引き寄せた要因でもあった。

 75キロ級は世界的にも選手層が厚い。昨年の世界選手権では初戦でフランスの選手に負けた。遠い距離からでも勇気を持って攻める外国勢を見て、「自分は思い切りが足りない」と痛感したという。その苦い経験も肥やしになった。

 正式競技となった20年東京五輪は階級が世界大会で実施される5階級から3階級に絞られる。幸いにも上下2階級が1階級にまとめられ、75キロ級はそのまま。「体重そのままいけるのはありがたい。最終目標のオリンピックにちょっとだけ近づけたかなと思う」。6歳で競技を始めて20年余、愚直に空手道を追い求めてきた27歳に、追い風が吹いてきた。【首藤正徳】