SP2日前に左手薬指を亜脱臼した紀平梨花(16=関大KFSC)は、68・85点で5位発進となった。冒頭の代名詞トリプルアクセル(3回転半)は1回転半で0点と出遅れたが、以降は大きなミスなく、73・91点で首位のB・テネル(米国)とは5・06点差で逆転の射程圏内につけた。8日(日本時間9日)に臨むフリーは今季出場全試合トップと得意にしており、3回転半の雪辱と頂点を目指す。

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テープで固定された左手薬指に目をやり、紀平は浜田美栄コーチの言葉を静かに聞いた。「真のチャンピオンになるにはこういう試練も必要だし、挑戦だと思って頑張ろう」。師と額を合わせ、進んだリンク中央。直前の6分間練習後に「トリプルアクセルを跳ぼう」と決意し、いきなり迎えるヤマ場へ向かった。

2日前に亜脱臼した指の痛みは感じなかった。痛み止めの薬も服用した。だが、踏み切った直後に体を締めきれず、空中で回転軸をつくれないまま1回転半で着氷。「あぁ…」というため息に包まれ、規定により0点と出遅れた。

35分間の午前練習では、普段15本近く繰り返す3回転半が5本程度に激減した。指を固定したことでコーチの手を借りて靴ひもを結び「思い切って締めたと思ったら、すごく緩かった」。練習中に何度も結び直すロスがあり「スピードが足りなかったのと、ミスが起こっておかしくないような練習量だった」。

それでもジュニア時代のように総崩れは防いだ。昨年1月に同じ箇所を骨折した経験も生き「(ジャンプ時に体を)締める時の気持ち悪さというか、抵抗がすごく多い。難しいっちゃあ難しいけれど、1年前で慣れていたので、そこは良かった」。フリップ-トーループの連続3回転と、3回転ルッツは加点を導き「すごく落ち着いて、自分の中ではいい出来だったと思う」。グランプリ(GP)シリーズ第4戦NHK杯では6・58点差を逆転しており、首位のテネルと5・06点差にとどめた意味は大きい。

今季6戦でいずれもトップのフリーは、8日に行われる。当日は40分間の公式練習で3回転半の本数を増やし、本番で最大2本の導入を視野に入れる。「今日トリプルアクセルをミスしておいたから『こういうことがあってはいけない』と分かった。そこを生かして、決められるように頑張りたい」。GPファイナル初出場優勝を飾った16歳は、初出場の今大会でも真の女王への道から目を背けることはない。【松本航】