ショートプログラム(SP)首位のネーサン・チェン(20=米国)がフリーも1位の224・92点を記録し、合計335・30点で3連覇を果たした。最終滑走で直前の羽生結弦(ANA)と同じ4種5本の4回転ジャンプに成功。自らが持つ合計点の世界最高を11・88点更新し、SP、フリー、合計で自己ベストを記録した。5位となった18年平昌オリンピック(五輪)以降、国際スケート連盟公認大会負けなしの男が、新時代の先頭を進む。

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世界選手権2連覇中の20歳は落ち着いていた。チェンが足を踏み入れたリンクは、直前の羽生をたたえて投げ込まれた「くまのプーさん」のぬいぐるみで埋め尽くされていた。「羽生選手と争えるのは光栄なこと。彼は間違いなく、自分をより良いスケーターへと押し上げてくれている」。常々ライバルを尊敬する男は、黙々と準備に徹した。

今季のフリーは「ロケットマン」。伝説的な英国のミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を描いた映画に使われた曲を使用する。冒頭の4回転フリップ-3回転トーループの連続ジャンプはジャッジ9人中5人が、出来栄えで最高の5点と評価。続く高難度の4回転ルッツも成功させ、流れに乗った。4種5本の4回転ジャンプで曲にアクセントをつけ「とてもうれしい。ジャンプにも満足している」と実力を証明した。

金メダルも期待された18年平昌五輪ではSP17位と大きく出遅れ、フリーで巻き返したが5位で表彰台を逃した。以降、常に頂点に立つ安定感が際立つ。「GPシリーズではミスがあったが、ようやく安定した演技ができた」。3連覇を目指す世界選手権を控えたシーズン後半へ、これ以上ない収穫となった。

米国の名門エール大に在籍し、学業も一切手を抜かない生活を送る。国際大会にも常に教材を持参。競技でも脂が乗った自身の状態に満足せず、常に向上心を抱いている。男子フィギュア界を引っ張っていく、王者の実力をトリノの地で証明した。