羽生選手と優勝したチェン選手には43・87点の差がついた。数字上は大きな差に見えるが、羽生選手が実力で劣っているとは感じない。両者が今持っている力をほぼ詰め込んだ構成。結果的に、チェン選手の安定感が勝った2日間だった。

ともにフリーでは4種5本の4回転を着氷。ジャンプは1つの技術だが「プログラムの一部」と言える。フリーの羽生選手は基礎点が1・1倍となる演技後半の3回転フリップで回転不足、トリプルアクセル(3回転半)が1回転半となるミス。このような失敗はジャンプ自体の基礎点や出来栄え点の伸び悩みだけでなく、プログラム全体の印象に影響される演技構成点に連動する。ジャンプ構成が高度になるほど「ハイリスク・ハイリターン」。羽生選手は現時点で今回の構成をやりきる力は持っており、完遂したと仮定すれば約40点の上積みは見込める。

シーズンは後半戦へ進んでいく。強いメンタルを持つ羽生選手は拮抗(きっこう)した状態でチェン選手に勝つより、自分が上に立つ準備を目指すだろう。戦略の1つとして見え隠れするのが、世界で成功例のない4回転半への挑戦。来年3月の世界選手権へ、どのように巻き返しを図ってくるのか楽しみだ。(10年バンクーバー五輪代表、11年世界選手権銀メダリスト)