東京オリンピック(五輪)の顔役が、開催を訴えた。体操男子で五輪個人総合2連覇の内村航平(31=リンガーハット)が、コロナ禍で開催へ厳しい見通しが続く国内の雰囲気に、「できないじゃなく、どうやったらできるかをみなさんで考えてほしい」と意識変化を求めた。感染拡大後、国内で行われた初の国際大会。モデルケースとして注目が集まる中で、声を上げた。金メダルを狙う鉄棒の演技ではH難度の大技に初成功した。

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「五輪開催に1歩近づけた」。選手、関係者もそう口にしたが、留意すべき点はある。試金石とされた今大会は、非常に特殊な「見本」だったことだ。

移動はチャーター機を含み、ホテルは国別で1フロアを貸し切った。専用バスでの会場との往復以外は外出禁止。日本滞在中は毎日行うPCR検査の選手団の対象は80人以上。「過剰なまでの」万全の対策を敷いたが、その経費は多額になった。

今大会は国際体操連盟(FIG)が主導し、「基準」を作るために特別に作られた大会だった。日本協会も費用負担し、1台100万円ほどの新型感染対策機材などを企業のPRも兼ねて貸与してもらうなど、限定的な努力もあった。

また、PCR検査の回数を増やせば、その分「1%」とされる偽陽性の確率も上がる。今回の内村は1度は陽性と判断され、翌日の再検査で陰性とされたが、2日半も調整を中断し隔離生活を送った。大会直前であれば、「偽陽性」で欠場になっただろう。

「1歩近づく」ために意義はあった。ただし、その基準の度合いは慎重な議論が必要だろう。【阿部健吾】