19年の主役を張った記憶が少しずつよみがえった。石野貴之(38=大阪)は詰めかけたファンの声援に応えながら控えめに笑顔を見せた。

「これで改善すべきことができたとは言えないけど、少しは光が見えてきた」

コンマ11のスタート。「起こして少し様子を見た」と話しながらも、スリットから出ていった。抜群の出足、行き足は優勝戦でも生きた。パワーは優勝戦6人の中でも抜けていた。

「寺田(祥)さん、前本(泰和)さんをのぞけば、抜けていると思った」

バックに入って、さらに加速すると水面を慎重に回りながらも、徐々に優勝を確信した。

19年の賞金王は、昨年の度重なるフライングなどでリズムを崩し、プライドも自信も失いかけた。今節に入る前の最近勝率は、5・46と、A2級でさえ危ない状態。F休み明けで、さえないレースが続いていた。

「ここまで緊張したことはなかった。不安や自信のなさからだと思う」

これまで8度のSG優勝とは違った局面は、当地3節前の一般戦を走った経験と気持ちで乗り越えた。

「先月走ったことでペラ調整は分かっていた」

この優勝でA2級でのグランプリ出場も見えてきた。でも、気持ちを高ぶらせるのは早いと思っている。

「目指しているところだけど、今は大きなことは言えない。責任のある立場なのも分かっている。今は一生懸命、走るしかない」

SGであれ、一般戦であれ、まだ乗り越えなければならない試練はある。石野はあえて湧き上がる感動を抑え、次の戦いに向かう。【中牟田康】

◆石野貴之(いしの・たかゆき)1982年(昭57)6月3日、大阪府生まれ。90期生として、02年5月に住之江タイトル戦でデビュー。同年6月の住之江新鋭リーグで初勝利。同期には吉田拡郎、赤坂俊輔、渡辺雄一郎らがいる。SG優勝は9度、G1優勝は8度。166センチ、53キロ。血液型O。