日本のエース羽生結弦(26=ANA)が193・76点の2位で今季最後の演技を締めくくった。1位はネーサン・チェン(21=米国)。今季3度目となるフリー曲「天と地と」の披露。水色を基調とした和の衣装で琵琶の音に乗り、有観客の会場から大きな拍手を浴びながら舞った。

前日15日のショートプログラム(SP)は2位。今季の自己ベストとなる107・12点をマークし「前半の(4回転)サルコーとトーループ(4回転-3回転の2連続)ジャンプを、このプログラムにしてから初めて、試合でキレイに決めることができた。成長しているな」と手応えをつかんでフリーへ。「世界選手権(3月、3位)の悔しさは少なからずある。リベンジしたい思いも少なからずある。それを認めて、成長したなと感じられるような演技ができるように。集中したい」と神経を研ぎ、この日を迎えていた。

羽生の20-21年シーズンが幕を閉じた。今季は、新型コロナウイルス感染拡大の影響でグランプリ(GP)シリーズを欠場。自身が移動することによって感染拡大のきっかけになることを防ぐため、シニア転向後初めてシーズン序盤に試合がない日々を送った。

故郷の仙台市などを拠点に、1人で練習する日々。「ほかの選手の情報も入ってきて『みんなうまくなっているな』と思ったり、自分のやっていることが無駄に思えてきて、1人だけ暗闇の底に落ちる感覚だった」と沈んだ。

世界初の成功を目指すクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)どころか、昨年10月末ごろには最も得意な3回転半まで跳べなくなっていた。「どん底まで落ちた。戦うのに疲れたな。もう、やめようかな」。世相も暗く「好きなスケートをすることにも罪悪感があった」。そんな時に、このフリー曲=69年のNHK大河ドラマ「天と地と」と出合った。

「(主人公の上杉)謙信公。戦いの神様にも葛藤があり、最後は出家し、悟りの境地まで達した価値観が自分と似ているのかな。その考え方に触れ、自分のために動いてもいいのかな」と立ち直った。

コロナ禍の中、出場を決めたことで前を向けた。昨年末の全日本選手権でファンの拍手を背に5年ぶりの優勝。世界選手権は3位だったが、SPでは首位と1人の取り組みは間違っていなかった。「『演技を見て勇気をもらいました』などの声をいただけたことも自分へのご褒美、報酬になった」と背中を押され、この感染拡大が続く大阪にも「大変なことになっているのは重々分かっていますが、ここで演技を残すことによって、誰かに何かしらの希望だったり、心に残る瞬間になれば。1秒に満たなくてもいいので」と光になることを目指してきた。

だから、この日の結果がどうであれ、感謝を込めて滑ると決めていた。既に来季への活動意欲は明言。前人未到の4回転半を完成させ、この「天と地と」に組み込む計画を立てている。3月には「確実にうまくなってるんで、羽生結弦」と言った。まだ進化する五輪(オリンピック)2連覇スケーターが、21-22年シーズンにつながる今季最後の演技を終えた。【木下淳】