22年1月に開幕するラグビーの新リーグ「リーグワン」は、地域とのつながりがテーマの1つになる。

強豪のコベルコ神戸スティーラーズは、多くの人に親しまれてきた「神戸製鋼」の文字を外し、神戸と歩む強い思いをにじませる。今季のチームを支える橋本大輝主将(34)、橋本皓副将(28)の両フランカー、入団2年目のSO李承信(り・すんしん)副将(20)が地元の「神戸」や「ファン」への思いを語り合った。【取材・構成=松本航】

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34歳の主将と、28歳、20歳の副将。今季のリーダー陣の人選には、世代の枠を飛び越え、初代王者へ進もうとする意志がにじむ。神戸で生まれ、大阪朝鮮高、帝京大を経て、昨季に入団を果たした李は笑って切り出した。

李「僕は『神戸といえば神戸製鋼』という環境で育ちました。14~15歳の時のことを覚えているんです。自分の学校の前が橋本(大)さんの家で…(笑い)。もちろん神戸製鋼の選手と知っていましたし、体が大きくて『すごいなあ…』と思いながら見ていました」

初めて聞いた話に橋本大は「恥ずかしい…」と苦笑いした。九州国際大付高から京産大を経て、09年に神戸製鋼へ入団。平尾誠二さん(故人)がゼネラルマネジャー兼総監督、プレーイングコーチに元木由記雄氏、主将は大畑大介氏だった。神戸一筋で歩んできた男は環境の変化を実感する。

橋本大「SNSで選手が情報を発信したり、動画に出たり…。入部当初では考えられないぐらい、変わってきていますよね」

現在、チームの公式YouTubeにアップされている動画がある。橋本大は神戸のシンボル「ポートタワー」周辺をスーツ姿で歩いた。チームとしての決意が地元の名所と共にまとめられている。地域やファンについて考える機会も、自然と多くなった。大阪市出身で東海大仰星高(現東海大大阪仰星)から東海大に進んだ橋本皓は、1つの印象的な出来事を明かした。

橋本皓「W杯日本大会が開かれた19年、トップリーグカップ開幕戦が和歌山で開催されました。その相手だった近鉄の選手と一緒に和歌山の小学校に行って、子どもたちと給食を食べたり、交流したことがあります。その子たちが試合に来てくれて、僕は全く有名な選手じゃないのに、サインを求めてくれたんです。ファンの方々が喜んでくれるのはうれしいし、僕たちのモチベーションにもなる」

コベルコ神戸にはアカデミーが生まれ、献血の呼びかけ、地元の小学生が登校する際の「見守り隊」など、ピッチ外での活動が年々増える。新リーグ参入を機に定めたビジョンは「笑顔あふれる未来をともに」。かつて阪神・淡路大震災から市民と共に立ち上がったチームは「クリエーティブラグビーで、心に炎を」と明確な使命を掲げている。

主将には目標がある。

橋本大「神戸のいろいろな方から『来てください!』と言われる。そんな存在にならないといけないと思います。まだ、僕たちから『行かせてもらってもいいですか?』と尋ねている段階。そのために(地域貢献活動に)協力もしますし、ラグビーでも結果を残さないといけない」

リーグワン開幕戦のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安戦(22年1月8日、ノエスタ)まで、残すはちょうど3カ月。神戸にとっての、新たな挑戦は続く。