競泳男子の16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)400メートル金メダル萩野公介(27=ブリヂストン)が24日、都内で会見して引退を表明した。3大会連続出場の東京五輪を区切りに「よく頑張ったなと思う」。

多種目挑戦で日本水泳界の常識を変えた天才スイマーは、完全燃焼でプールに別れを告げた。来年はスポーツ領域を学ぶために大学院に進学予定。指導者転身は否定したが、今後も水泳に携わっていく。

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引退レースとなった3カ月前の東京五輪と同じ顔だった。萩野は「やりきったという強い気持ちが僕の中にある。現役を引退します」。生後6カ月でプールに入り、ジュニア時代から五輪まで活躍。「常に水泳が人生の一部だった。よく自分は頑張ったなと思う」とすがすがしい表情だった。

東京で最後と決めていた。19年春にモチベーション低下で3カ月の休養。「やめてもいいんだよ」と周囲の声を踏まえて「もう1度ちゃんと泳ぎたい」と自分で決めた。16年9月の右肘手術で「物理的に泳ぎたいように泳げなくなることが多かった」。13年日本選手権で初の5冠など多種目に挑戦し、泳げば1位の天才スイマーが、泳ぐ意味を自問自答した。「1位ならいい、記録を出せばいい。そこに何が残るんだろう」。苦しくてもベストを尽くすこと、1歩1歩前に進むこと。その尊さに気づいた。東京への挑戦をゴールに定めて、一進一退の泥沼をはうようにして、進んだ。

東京五輪200メートル個人メドレー予選前。次の大会を考えなくていいことに気づいた。これまでの水泳人生が走馬灯のようにフラッシュバックした。恩師、仲間、家族…。支えてくれた人の顔が浮かんだ。「前ばかり見ていたけど、ふと後ろを振り返ると1番の宝物を見つけることができた気がした」。7月29日、200メートル個人メドレー準決勝を突破して号泣した。決勝は6位。一緒に泳いだライバル瀬戸とプールで抱き合って「大也(瀬戸)本当にありがとね」を素直に言えた。瀬戸に「おれこそありがとう」と言われ、思い残すことはなくなった。「格好よく終わる予定だったけど、弱いところもさらけだして全力で泳いだ。それも含めて、格好いい競泳人生だったかな」と照れ笑いした。

来春には関東圏の大学院に進学予定。競技普及、環境問題などにも興味を持つ。「指導者は向いてないです。水泳界で力になれるなら何でもやりたい。引退はしますが、道は進んでいく」。天国も地獄も味わった天才スイマーがプールに別れを告げた。【益田一弘】