16年リオデジャネイロオリンピック(五輪)銅メダルで東京オリンピック(五輪)代表の羽根田卓也(34=ミキハウス)が、男子カナディアンシングル(C-1)で3年ぶり13度目の優勝を遂げた。前年優勝の佐々木翔汰(万六建設)との接戦となり、わずかに0秒28上回った。男子カヤックシングル(K-1)は東京五輪代表の足立和也(31=ヤマネ鉄工建設)が3年ぶり6度目の優勝。女子は東京五輪K-1代表の矢沢亜季(31=昭和飛行機都市開発)が、同種目とC-1の2冠を制した。

     ◇     ◇     ◇

前日の日本選手権は約18秒相当の差をつけて圧勝したが、この日はコンマ3秒差を切る大接戦。それでも羽根田の表情には充実感が漂った。「闘志が燃え上がる大会だった。勝負の楽しさを思い出すことができた」。優勝カップを手にすると、満面の笑みがこぼれた。

東京五輪で10位に終わった後は、1カ月以上の充電期間を経た。コロナ禍での延期や会場変更を経て、東京五輪コースのカヌー・スラロームセンターで急きょ行われることになった今大会。心身とも準備不足で臨んだにもかかわらず、「昨日から自分でもびっくりするぐらいいいパフォーマンスができていた」。その理由について思索し、ある結論が浮かんだ。「これは自分の力ではない。スラロームセンターの水の神様が、僕を歓迎してくれているからだ。これからの明るいカヌーの未来に、そして僕に力を与えてくれているんだ」。

羽根田が不参加だった前年の大会を制した佐々木が、この日の決勝で目を見張るレースを見せた。6歳年下のその後輩が出した好記録を、力強いパドルさばきを繰り出してわずかに上回り、日本カヌー界の第一人者は「あらためて、ここが僕の居場所だと感じた」とうなずいた。

競技者として「人生最大の挑戦」と位置づけた東京五輪を終え、「『じゃあ、はい次』とは、なかなかいかない」と、今大会の公式練習後に吐露した羽根田。去就については「年内に結論を出す」としていた。東京五輪以来の実戦を2日間こなし、最後は熱戦を制したことで、「いろいろな思いが胸のなかにある。今後の活動のヒントになるようなことも得られた」。その結論に関しては「昨日、今日で何か決めるわけではない」と明言を避けたが、自身の中で方向性が、少しずつ見え始めているようにも感じられた。【奥岡幹浩】