かつての王者が、再び日本一の景色を見た。帝京大(関東対抗戦1位)が前人未到9連覇を達成した17年度以来、4大会ぶり10度目の頂点に立った。関東対抗戦で14-7と競り勝った明大(同3位)を下し、国立に歓喜の声が響いた。

世間とのハードルの違いに、戸惑う3年間だった。連覇が途切れた18年度は天理大に、前回20年度は早大に準決勝で敗れた。3年のうち2年はベスト4。それでも「V9」の印象が根強く「低迷」という言葉も耳に入った。岩出雅之監督(63)は「そういう言葉で喜ぶ人はいない。『決勝に出ないと低迷なんだ』とここ1~2年で思った。ただ、裏返して捉えました。日本一を目指すチームと自覚を持って、ファイナル(決勝)に毎回上がっていくことが大きな目標。そこで勝ちきる力をつけて、学生たちを躍動させたい」と決意し、チーム作りを進めた。

21年6月13日、静岡・エコパスタジアム。この日と同じ明大と対峙(たいじ)した招待試合があった。試合前にジャージーを手渡す際、プロップ細木康太郎主将(4年=桐蔭学園)が「絶対に勝とう」と伝えた。

「今まで明治大学さんに負けてきて、心のどこかで不安だったり、今まで負けてきたことが頭の中にあったと思う。そんなの関係なしに勝ちたかった。みんなの顔つきが変わり、チームもぐっと1つにまとまった。スタンドの(控えの)メンバーもすごく喜んでいた」

32-28。4点差での勝利が“日本一を知らないチーム”の起爆剤となった。

V9時代と同様に、学年間で壁はない。今回の明大戦に先発したロック本橋拓馬(京都成章)、フランカー青木恵斗(桐蔭学園)、SH李錦寿(大阪朝鮮高)の1年生トリオも伸び伸びとプレーした。192センチ、113キロの本橋は細木主将、プロップの津村大志(2年=御所実)との3人部屋。時には3人で風呂に入り、互いの背中を流した。帝京大が他を圧倒する武器として育むフィジカル。本橋は「高校時代までここまで食事に気を付けたことがなかった。(同期の)青木が最近、身に着けた特技があるんです」とほほえみ、あるエピソードを明かした。

「コンビニに行って、パンの脂質を当てられるようになったんです! メロンパンとかを見て、どんどん当てていく。『あんバターロールはおいしいのに、脂質が低いぞ!』と盛り上がったりしています」

そんな面々を岩出監督は「いいところが出ることを期待し、1年生らしいプレーは大目に見て決勝戦を見守りたい」と大一番でも送り出した。この日の先発は4年生が15人中6人。経験豊富な上級生に、フレッシュな下級生が融合した。かねて本橋は「9連覇していた頃のように勝ちたい」と誓った。2022年1月9日。帝京大が歴史の1ページをめくった。【松本航】