スピードスケート男子500メートルの10年バンクーバーオリンピック(五輪)銅メダリストで、元世界記録保持者の加藤条治(37=博慈会)が29日、都内で記者会見を開き、現役引退を表明した。

思い出のレースについては2つ語った。

1つは昨年12月29日、北京オリンピック(五輪)代表最終選考会(長野)。男子500メートルで転倒し、最下位の25位に終わって5大会連続の五輪出場の道が断たれた。

「実質、引退レースとなったわけですが、それまでの取り組みは今までのスケート人生の中で最も内容が濃いものになった。ソチ五輪が終わったくらいから、けが等あって、なかなかうまく滑れなくて。4年に1度の男みたいになって。平昌は選考会だけ結果を出せましたけど」

「その後、まともに滑ることができない中、迎えたのが北京五輪の選考会でした。支えてくれた方々が今回すごく多くて。『勝てるな』って本気で信じてやっていました」

「1、2カ月前に膝を壊しちゃって、また動かなくなっちゃったんですけど、4年間、全く動いてなかった体があのレースで全盛期並みに動いたんですよね。転倒してしまって、いい結果は残らなかったけど、自分の力を出せた。長い取り組みの集大成があのレースで良かった」

「自分がこれまで引退を考えるに当たって、ボロボロになって、動けなくなって、しっかり負けてからやめることを理想と考えていました。理想とする、ホントのボロボロになってやめる形ではなかったと思いますが、スケート人生の生き様を一番、見せられたのかなと。見てる人も、あのレースはものすごくインパクトが強かったと思うので、スケート界に何か大きなものを残せたのかな。最高のレースでした」

もう1つは05年11月のワールドカップ(W杯)ソルトレークシティー大会だ。20歳の時。34秒30の世界記録(当時)を出した試合だった。

「アウトスタートで、僕の中では世界記録を出せると思ってない中で結果を出したんですけど、なぜか、あのレースだけは感覚を鮮明に覚えてます。あ、すみません、うそでした(笑い)。直線は全く覚えてないんですけど。カーブはものすごく覚えていて。最初のカーブは何か足が重くて氷にへばりついてて、うまくいかないなって感じだったし、最後のカーブは、スピードが出過ぎてるから足を動かさないで入って、このままで大丈夫かなと思いながら、でも最後だけチョチョチョチョッと足を動かしたり。普通は覚えていないことを覚えているのが、あの世界記録のレースでしたね」

【木下淳】