国際スケート連盟(ISU)は7日、タイ・プーケットで開催中の第58次総会で、フィギュアなどのシニア大会への最低参加年齢を現行の15歳から17歳に引き上げることを決めた。

総会の第22号議案として取り上げられ、大型スクリーンに賛成100票、反対16票、棄権2票の結果が映し出されると、場内から大きな歓声と拍手が沸き起こった。

成立要件の3分の2(79票)を超える得票で可決。ヤン・ダイケマ会長とフレディ・シュミット事務局長は「非常に重要で歴史的な決定と言える」と神妙な表情で受け止めた。

背景には、特にフィギュア女子で長く続く低年齢化の問題がある。18年平昌オリンピック(五輪)のアリーナ・ザギトワや98年長野五輪のタラ・リピンスキーは15歳で金メダル。14年ソチ五輪では同じく15歳のリプニツカヤが団体戦の金メダル獲得に貢献した。

94年リレハンメル五輪のオクサナ・バイウルと02年ソルトレークシティー五輪のサラ・ヒューズは16歳、ソチ五輪と今年2月の北京五輪は17歳のアデリナ・ソトニコワ、アンナ・シェルバコワが金メダルをつかんだ。

成人女性へと体形が変化する前の、ジュニアから上がった直後の少女たちが、軽やかな体で高難度ジャンプを跳び、勝ってきた。

問題なのは、その後だ。ザギトワは17歳で早くも第一線から離れ、ヒューズとソトニコワは五輪後、数えるほどしか試合に出られなかった。バイウルとリピンスキーに至っては五輪を最後に、公式戦の氷に立つことなく引退している。

栄光の後、心身の不調に苦しむ例も少なくない。過度な減量もあるとされる。リプニツカヤは引退直前まで摂食障害の治療を受けていた。4回転ジャンプがなければ勝てない現代では負傷のリスクも高まり、全種目の中で女子だけ著しく短い選手寿命が懸念されてきた。最強ロシアの養成法が他国から「使い捨て」と非難されるケースもあった。

現状を受け、ISUのアスリート委員会が20年12月と21年1月に実施した調査では86・2%が制限年齢の引き上げに賛成した。総会の出席者によると「966人の選手とコーチが望んだことだ」という。

投票前には、各国の代表者からの意見も相次いだ。五輪のメダル3個を持つ選手出身者は「子供や若いアスリートの健康を危険にさらす価値がメダルにあるのか」。さらに「各国・地域の責任を明確にするため記名投票を」と求めた。実際は無記名での実施となったが、スケートに関わる全員が逃げられない問題であることを強調した。

一方、ロシアの代表者は五輪後の早期引退について「フィギュアの女子シングルだけに限った話ではない」と主張。競技継続より、稼げるアイスショー出演に軸足を移すことは自然だと持論を展開したが、その後の投票で100ものNOを突きつけられた。

議論を再燃、加速させたきっかけもあった。4カ月前の騒動だ。

ROC(ロシア・オリンピック委員会)の15歳ワリエワが、北京五輪の団体戦で金メダルを獲得(処遇保留中)。一夜明けてドーピング問題が表面化したが、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の規定では16歳未満が「要保護者」として制裁を免れたため、スポーツ仲裁裁判所(CAS)から大会参加継続を容認されていた。

当時はISUも国際オリンピック委員会(IOC)も、WADAの規定を前に有効手段がなく、欠場を求める請求は棄却された。CASの判断も物議を醸し、今後もISUが16歳未満のスケーターの出場を認める限り、ドーピングの疑いがあったとしても不問になる前例ができてしまった形だ。

再発を防ぐため、年齢制限改定へ流れが強まった。ISUはワリエワの個人戦が終わった2月下旬、日刊スポーツの取材に「6月の総会で年齢制限を17歳に引き上げる提案をする」と回答した。そして「我々は通常、総会のアジェンダに含まれる可能性がある提案に関して、詳細を公式発表前に明らかにすることはしない。ただ、現在の状況に鑑みて今回は事実関係を認める」と異例の補足もしていた。それだけ本気だった。

4年前の総会では、オランダ協会が17歳以上への引き上げを提起したものの、除外されていた。今回はノルウェー協会とともにISUが自ら引き上げを提案。本気度を印象づけた。投票前の医学委員会で選手寿命の短さに直結する科学的根拠を示し、理解も求めた。そして約85%の賛成率で受け入れられた。

年齢は段階的に引き上げられ、来月1日から始まる来季22-23年シーズンは現行15歳のまま、23-24年シーズンから16歳、24-25年シーズンから17歳になる。

26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪の出場資格も17歳以上に確定。日本女子で唯一、大技の4回転トーループを跳ぶ島田麻央(13=木下アカデミー)ら有望株が出場できなくなったが、日本側は各国・地域と協調。健康を優先し、競技人生を延ばし、より豊かなものにする長期的視点から賛成した。

スケート連盟の竹内洋輔フィギュア強化部長も北京五輪期間中、選手の発育や発達、傷害予防を優先したい私見を口にし、総会を控えた先月の理事会後には、伊東秀仁フィギュア委員長も段階的な引き上げに賛意を示していた。

投票直前、各国によるスピーチ終盤の発言者が最大の拍手に包まれた。さまざま議論は交錯したが、ようやくの一致を見た。

「最も大事なのは子供たち、若者たちの健康です。それ以外に何かあってはならないのです」

【木下淳】