世界女王の坂本花織(22=シスメックス)が2位に入り、GPファイナル(12月、トリノ)進出を決めた。ショートプログラム(SP)2位から、フリーは1位の133・80点で合計201・87点とした。北京五輪、世界選手権で奮闘した昨季の反動に苦しむ中、前を向く試合となった。3位の住吉りをん(オリエンタルバイオ/明大)、5位の渡辺倫果(法大)もファイナルの可能性を残した。ペアの三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)はGP2連勝でファイナル行きを決めた。

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ささやく声が聞こえる。「去年頑張ったからええやん」「今年はしんどいこと、やらんとこ~よ~」。その度に「あ~、また考えてる」と心がなえた。

坂本がこの半年送ってきた生活は、そんな毎日だった。「自分の中で悪魔と天使が闘ってて。『頑張らないと』と『頑張り疲れた』がすごく葛藤中で」。

昨季が濃厚すぎた。北京五輪代表争いが続き、本番では銅メダル。3月の世界選手権では優勝まで駆け上がった。張り詰めた時間の反動。想像以上の「悪魔」が体内に宿っていた。

大学を4年生で卒業するため、7、8月は集中した。それも言い訳に、練習の質も量も下がった。第1戦スケートアメリカでは優勝したが、どこかで「ツケ」が来る予感はしていた。

前日のSPで的中した。ジャンプ2本でミスし、60点台は国際大会で3年ぶり。「表彰台は外したらあかん」と尻に火が付いた。「もう1回仕切り直さないと」と迎えたフリーだった。

冒頭、持ち味の雄大なダブルアクセル(2回転半)を決めたが、「いつもの風を感じない」とスピード不足にあえぐ。米国から帰国後の先月27日からは39度の熱で1週間練習を休んだ影響もあっただろうが、踏ん張る。最後のループが1回転になって演技後は思い切り頭を抱えたが「今できることはしっかりできた」と首位に肉薄した。

「いまは悪魔の方が多少多い(笑い)」。まだ天使は劣勢だという。ただ、確実にこの試合で露見したことが、撃退への力になる。中野コーチも「いろいろ葛藤があると思います。でもたぶん12月は頑張ると思います」とファイナル、全日本選手権へ期待を込めた。

「友達に試合後のご褒美を頼もうと…」。心境を吐露し尽くすと、ニヤッとした。「焼き肉! 焼き肉しか勝たん!」と声を張り上げて笑った。その瞬間、天使がほほ笑む予感が漂った。【阿部健吾】