第4戦英国大会優勝の三原舞依(23=シスメックス)が涙の演技で思いを伝えた。今季SP世界2位となる73・58点を記録し、2位発進。首位のルナ・ヘンドリックス(ベルギー)と1・30点差につけ「フリーはイギリス大会より、もっともっとレベルアップしたものをお見せできるように頑張りたいです」と笑った。

浮き沈みの激しい感情に、三原は向き合っていた。

最後から2人目、11番目に呼ばれて立ったリンク。脚は震えだし「これは自分の脚!」と言い聞かせた。

「『緊張しすぎでしょ』っていう(笑い)。自分の脚が自分の脚じゃない感じでした。『自分の体やから、自分でコントロールできる!』って思いながら…」

持ち時間の30秒をギリギリまで使い、名曲「戦場のメリークリスマス」の最初の音を聞いた。

舞依の人生を込めてほしい-。

3月にリモート、5月にはカナダ・トロントへ足を運び、対面で仕上げた際にかけられた言葉を思い出した。気心知れた振付師のデービッド・ウィルソン氏から、そう伝えられていた。

性格はネガティブ思考。さまざまなことを考え、消化し、前向きになる心は、自分が一番分かっていた。

「考えることができるだけで『幸せだな』って、最近思うようにしています」

演技前の脚の震えもそうだった。ダブルアクセル(2回転半)は氷をなでるように柔らかく着氷し、3回転フリップで1・44点の加点を得た。後半のルッツ-トーループの連続3回転を降りきると、手拍子が聞こえた。こだわるステップ。自らの人生を思い返した。

「正直に言うと(人生の)いいところは、全然思い浮かばなかったです。すごくここまでいろいろなことがあって、こうしてたくさんのサポートのおかげでスケートに戻ることができた。今までやってきたことは裏切らないと思う。それを信じて、自分を信じて、先生方を信じて、氷を信じて…。いろいろなことを考えながら、滑っていました」

3季前は体調不良でシーズンの競技会を全て欠場した。数々の壁を前にして立ち止まり、踏ん張って、よじ登ってきた。最後のポーズを決めると、客席で揺れるバナーが見えた。ファンの拍手が聞こえ、リンクサイドではグレアム充子コーチが笑っていた。

「お客さんにあいさつをしている時に(涙が)『バァ~』ってなって、グレアム先生をパッと見たら、すごく喜んでくださっていた。本当に温かい方々に包まれながら、スケートができているなと思いました」

フリーは26日。4位以内に入れば自力で決まる初のGPファイナル(12月8日開幕、イタリア・トリノ)だけでなく、GP2大会連続の頂点も見える。心の葛藤と向き合う覚悟はできた。

「明日も緊張すると思うんですけれど、今までやってきたことを信じて、スケートをしっかりと楽しんで滑れたらと思います」

外は氷点下のフィンランド。人々の心を温めた滑りが、そこにあった。(エスポー=松本航)