フィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル(トリノ)で初優勝を飾った宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が13日、イタリアから凱旋(がいせん)帰国した。

指導を受けるステファン・ランビエル・コーチが06年五輪で銀メダルを手にした地での優勝。試合後にかけられた言葉を明かし、師との絆を一層深めて、21日開幕の全日本選手権(大阪・東和薬品ラクタブドーム)へ向かう。銀メダルの山本草太(中京大)、女子で初優勝の三原舞依(シスメックス)らも帰国した。

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試合後のそのひと言が、宇野の信頼と確信を、より強いものにした。

「自分のやりたいようにやっていいよ。それに僕たちはついていくから」。

一度拠点のスイスに戻るランビエル・コーチは、優勝をこれまでにないくらい喜び、気持ちを伝えてくれた。

いま、信念を持って進んでいる。「年齢的にも、僕のスケートに対する考え方でも、1つの大会に向けて全力で突っ走るのではなく、日々何をしたいかに向かって練習している」。競技者として大会の結果を軽視はしてないが、大きくも見ていない。それは一貫し、いまさらに明確になっている。

GPシリーズ第5戦NHK杯で優勝したが、師から練習姿勢を諭された。それはスイスと日本で、常時一緒にいないことも要因だった。ただ、師にとっても思い出の地イタリアで対話し、練習を共にし、その少しの行き違いは過去のものになった。「きっと同じ考えなので」と、また絆は深まった。

ファイナルの優勝会見では、そのコーチの現役時代の演技をきちんと見たことがないと明かし、「歴史のレッスンが必要だね」と冗談で返されていた。ただ、師弟関係になる前、アイスショーで共演した時の鮮烈な印象は今も忘れない。「何をやってもうまい。芸術家ってこういうことだな」。いま日常の姿を知るからこそ、「感慨深い」と尊敬の念も増す。

4回転を4種類5本組み込んだフリーは、トリノでは4本まで成功させた。「難しい構成でも練習からしっかりできていたので。ようやく試合でできることが偶然ではなく、必然に変わりつつあった」。さらに手応えを持って、全日本選手権に挑める。

「練習でできたことを試合で出す」。シンプルだが難解な作業こそ、いま「やりたい事」。師からの後押しに、形になってきた自信。5度目の優勝がかかる全日本選手権へ。優勝以上の収穫を手に、進む。【阿部健吾】