<競泳:短水路日本選手権>◇最終日◇12日◇東京辰巳国際水泳場

 日本競泳界の超新星・渡部香生子(15=JSS立石)が、大逆転で女子200メートル平泳ぎを制した。平泳ぎの第一人者・鈴木聡美(山梨学院大)、前日の女子400メートル個人メドレーで日本記録を出した高橋美帆(日体大)と大接戦を繰り広げ、残り10メートルから驚異的な追い込みで高橋をかわして優勝をつかんだ。両肘を痛めており、万全ではない状態で2分19秒14の好記録。4月の日本選手権優勝とロンドン切符獲得はもちろん、五輪の表彰台まで見えてきた。

 残り25メートル。ライバル鈴木を後方に置き、渡部は先行する高橋を必死に追った。距離にして1メートル半。なかなか差がつまらない。だが食らいつく。粘る。伸びた。15メートル、10メートル、5メートル…、そしてゴール。どっちが勝ったのか?

 会場の視線は電光掲示板へ。渡部が2分19秒14、高橋は2分19秒35。スタンドからドッと歓声が沸く。15歳のスーパー中学生が、土壇場で日本一の栄冠をつかんだ。

 6コースを泳いだ渡部は「(4コースの高橋が)見えなかったので、分からなかった。電光掲示板を見て『やったー』って感じです。優勝できましたから」。愛らしい笑顔で率直な言葉を口にした。実は万全な状態ではなかった。1週間ほど前、練習を追い込み過ぎて両肘を痛めていた。麻積(おみ)コーチは「スタート台に立つと痛みが感じないんでしょう。落ち着いてよくレースした。褒めてあげたい」と目を細めた。

 大きな成長を遂げた1年だった。昨年4月の世界選手権代表選考会こそ派遣標準記録に届かず、上海切符を逃した。だが、5月のジャパンオープンで鈴木が欠場する中、3種目を制して大ブレーク。しかも200メートルの2分23秒90の記録は、昨年の世界ランキング3位だ。あの北島康介も「泳ぎの完成度が高く、センスがいい」と才能に一目ぼれした。秋のW杯シリーズでも6戦して4勝。そして今回の200メートルで見せた勝負強さに、上野競泳委員長も「やっぱり持っている」。もはや日本一はおろか、五輪の表彰台さえ見えてきた。

 愛らしいルックスもあり、メディア攻勢にあう。そんなフィーバーに負けずに勝利したことで、強心臓ぶりもアピール。麻積コーチは「普通の子ならプレッシャーがかかってしまう場面でも舞い上がらない。持って生まれたもの」と舌を巻く。来月はロンドンでのプレ五輪にも参加。多忙な15歳の悩みは「卒業式の練習に参加できない」こと。それでも「水泳を頑張ります。日本選手権に優勝して五輪に行きたいです」。春待つ競泳界に、期待のつぼみが膨らんだ。【佐藤隆志】

 ◆渡部香生子(わたなべ・かなこ)1996年(平8)11月15日、東京都出身。4歳からJSS立石で水泳を始め、東京・武蔵野中2年で全国中学総体100メートル、200メートル平泳ぎ優勝。中学3年となった11年に大ブレーク。4月の世界選手権代表選考会は100メートル2位、200メートル3位。5月のジャパンオープンで50メートル、100メートル、200メートルの3冠。11月のW杯北京大会200メートル優勝。164センチ、54キロ。