<フィギュアスケート:世界選手権>◇6日目◇3月31日◇フランス・ニース

 初出場の羽生結弦(17=東北高)が日本男子最年少で表彰台に上がった。SP7位からのフリーは自己ベストを大幅に更新する173・99点で、総合251・06点の3位となった。仙台出身で、昨年の東日本大震災では避難所生活も体験。苦難を乗り越えた大舞台で、こん身の滑りをみせた。SP3位の高橋大輔(26=関大大学院)は2位で、日本男子の複数メダル獲得は史上初となった。パトリック・チャン(カナダ)が2連覇を果たし、小塚崇彦(23)は11位に終わった。

 震えていた。右拳を大きく振り上げ、眼光鋭く前を見つめた。肩で息をしながら、思わず目頭が熱くなった。「ありがとうございます」。観客に、そしてエールを送ってくれた遠く日本の人々へ。羽生の額から滴る汗に、涙が混じった。

 羽生

 被災地の方々の応援を自分の中でしっかり受け止めた。

 冒頭で、完璧な4回転トーループを着氷。波に乗った。途中のステップで転倒するアクシデントがあったが「逆に休めたと前向きにとらえた」。続く3回転半-3回転の連続ジャンプを決め、ミスを最小限に抑える。途中では、興奮に思わず雄たけびを上げた。

 仙台市出身。昨年の東日本大震災では練習中に被害に遭い、スケート靴が脱げずにリンクにひざをついて逃げた。4日間は家族4人が避難所暮らし。畳1畳に毛布1枚の生活も味わった。その後は復興支援のショーに60以上も出演。「被災地代表みたいに何でも取り上げられるのが嫌だった」時期もあったという。

 転機は1月。もらっていた500通のファンレターすべてに返事を書いた。「勇気を伝えようとしていた僕が、本当は支えられていたんだな」。1文字1文字をかみしめた。「自分が出せるのは結果。被災地代表として日本が頑張っているというアピールをしたい」。そう言っていた通りの演技を、大舞台で披露した。

 02年大会で20歳で3位に入った本田武史の日本男子最年少メダル記録を大幅に塗り替えた。2年後のソチ五輪に向け、初の10代メダリストは伸びしろ十分だ。「(4回転)サルコーも練習しているので、来季は入れられるように」と飛躍を誓う。

 演技中の鬼気迫る表情に、表彰台でみせたあどけない笑顔も魅力の新星。「最後はハッピーエンドになったかな」。これから、もっと多くの“ハッピー”を応援してくれる人たちに届けるだろう。【阿部健吾】