<フィギュアスケート:4大陸選手権>◇第2日◇9日◇大阪市中央体育館

 真央がついに跳んだ!

 代名詞トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を2年ぶりに成功させた。3年ぶり3度目の優勝を狙う浅田真央(22=中京大)が、他要素もミスなく滑る74・49点で、後続と約9点差のぶっちぎり首位。09年国別対抗戦の75・84点に次ぐ自己記録で、10年バンクーバー五輪の73・78点も上回った。11年の4大陸選手権以来の完璧なジャンプは、苦悩の2年5カ月を乗り越えた勲章だった。2位は鈴木明子(27)で65・65点、3位の村上佳菜子(18)は64・04点で自己ベストを更新した。

 2年ぶりの感触だ。1度リンクを離れたブレード(刃)が、3回転半回った末に、再びリンクと調和する。滑らかに、軽やかに。浅田の真骨頂が2年ぶりに眠りから覚めた。

 曲が鳴り始める。“解禁宣言”を知る観衆も固唾(かたず)をのむ。静寂が包む会場。24秒後、氷を蹴る音が響き、そして着氷の音が響くと、熱狂が訪れた。浅田はうなりのような歓声を聞きながら思った。「アクセルが跳べても、他で失敗したらダメだ。他の部分も負けないくらい練習してきた。出したい」。

 いったん歓喜は収めた。次のジャンプ、スピン…。歓声が手拍子に変わるリズムに合わせ、踊りきる。笑顔がはじける。そして終幕へ。ステップを刻んで一気にフィニッシュ。手をたたいて、バンクーバー五輪後にはなかったガッツポーズ。両腕を振った。

 浅田

 本当はあまりしたくなかったんですけど、うれしくて、拍手だけじゃ足りないと思って、やっちゃいました!

 2年ぶりの復活。「長いようで短いようで、今日なんだな。すごくうれしい」と話したが、決して“短く”はなかっただろう。

 佐藤コーチに師事した10年9月から2年5カ月。基礎からスケートを見直すため、代名詞挑戦の許可が下りず、“下積み時代”だけが続いた。「やるのがモチベーション」だった。だから、周囲に悩みをこぼすこともあった。「いつ跳べるんだろう…」。次第に滑る楽しさも奪われた。

 「あなたが迷っていたら、見ている人が楽しいはずがないじゃない」。関係者のこの言葉が転機だった。昨年の世界選手権では意地になり、本番と練習で56回連続失敗。その後の言葉だった。「楽しさってなんだろう…」。

 今季が始まる前にスケート人生初の2週間の休みを取った。自分を見つめ、楽しさを探すため。野菜作りや乗馬で、競技を忘れた。自然と意地になっていた自分も消えていた。いつか再び跳ぶため、1度アクセルから離れる決断をした。「今季は後半に入れられればいい。それまでは我慢しよう」。自ら封印した。

 この日滑ったSPの「アイ・ガット・リズム」は、苦悩を知った振り付けのニコル氏が「毎日スケート場に来るのが楽しくなるように」と用意した。エキシビションだけ作る目的で訪れた米国で、ニコル氏からこの曲を聴き、「これでSPを滑りたい」と即決。楽しく滑れると思った運命のプログラムで、ついに楽しさと3回転半を共存させた。

 「いまのアクセルは昔のように、簡単なアクセルに戻ってきている」。ソチ五輪の枠取りがかかる3月世界選手権を前にして、シーズン前の考えは現実に。後半、それも勝負どころを前に間に合わせた。「まだまだ1回きりで終わりたくない」。今日のフリーで、もう1度。我慢を続けた22歳には、それくらいのご褒美があっても良い。【阿部健吾】