<柔道:第36回全国高校選手権>◇第1日◇個人戦◇20日◇東京・日本武道館◇日刊スポーツ新聞社後援

 五輪メダリストのジュニアたちが、20年東京五輪に向けて存在感をアピールした。92年バルセロナ五輪95キロ超級銀メダルの小川直也(45=プロレスラー)の長男雄勢(17=東京・修徳2年)が、男子無差別級で初優勝を飾った。189センチ、135キロの体格を生かした戦いで、高校時代の個人戦では無冠だった父親を上回った。

 父超えの第1歩だった。父直也の全盛期の体重より7キロ重い135キロの雄勢が「聖地」日本武道館で右拳を握る。恵まれた体とふてぶてしい表情は父とうり二つ。高校時代の個人戦では無冠だった父を超えたことには「実感は、あんまりない」と素っ気ない態度までそっくりだった。

 左手で奥襟をつかむ、父と同じスタイルで初戦から主導権を握った。3回戦では父直伝の支え釣り込み足で一本勝ち。4回戦で来月の全日本選手権に出場する田中を破ると、準決勝、決勝ともに左で組み伏し、相手に何もさせず、優勢勝ちした。試合後、父に優勝を報告したときだけ、うれしそうな笑みを浮かべた。

 幼稚園から「男だから出番が多い」との父の勧めでクラシックバレエに取り組んだ。だが、父の経歴を知った小4のとき、自ら柔道の道を進むことを決意した。今は週3回の乱取りなど、親子稽古をこなす。柔道場以外でも、気付けばメールや電話で教えを請う。3回戦で使った支え釣り込み足は、昨春にメールで教わった技だった。

 大会前、ライバルたちの優勝を予想する周囲の声を聞いた。動揺しそうになったが、父から「一番強いことを証明しろ。決着をつけてこい」と励まされ、不安を吹き飛ばした。父直也は「おやじの言っていることが何となく分かってきた。勝ち始めたことで、気づきが生まれてきたかな」と息子の精神面の成長も感じ取った。

 観戦した全日本の井上康生監督は「まだ粗削りだけど、魅力がある。お父さんを超える素材を持っている」と絶賛した。父が96年アトランタ五輪でメダルを逃し、引退を決めた7月20日に誕生した。世界選手権4度制覇も五輪金メダルには届かなかった父を超えるため、何が必要なのかは分かっている。【田口潤】