<男子テニス:ATPツアー・ファイナル>◇第7日◇15日◇英ロンドン・O2アリーナ◇シングルス準決勝

 アジア男子シングルス初出場で世界5位の錦織圭(24=日清食品)が、壮絶な打ち合いを演じた。年末最終世界1位が決まったノバク・ジョコビッチ(27=セルビア)とフルセットの大激戦。1-6、6-3、0-6で敗れはしたものの、超満員のスタンドを興奮させ、世界に「NISHIKORI」を知らしめた。錦織はツアー4勝、通算54勝14敗。年末最終世界ランク5位で今季の全日程を終了し、このまま日本に帰国する。

 激しい試合は、フルセットに突入した。錦織が第1ゲームのブレークチャンスを逃すと、続く第2ゲームはブレークを許した。深いボールにも下がらず、攻めの姿勢を貫いた。正確なストロークで相手を揺さぶった。しかし、最後は力尽きた。ギリギリの内容だったが、スコアは離された。

 第1セットは完璧な相手の前に1ゲームしか奪えなかった。しかし、第2セットは攻撃的なショットで相手のミスを誘い、取り返した。1次リーグ1試合平均3ゲームしか落としていないジョコビッチから、セットを奪った。今季ATP1位の最終セット勝率を誇る錦織。しかし、相手も室内コート30連勝と、室内での圧倒的な強さがあった。あと1歩、及ばなかった。

 現在の世界最強選手と、次代の王者候補の戦いだった。ジョコビッチは1次リーグA組最終戦でベルディハを下し、年末の世界1位を確定させた。昨年末1位のナダルから勲章を奪還した。ウィンブルドンにも勝ち、この大会のリーグ戦も3試合で9ゲームを落としただけ。錦織も「世界で最も好調な選手。壁のようでまったくスキがない」と今年最強選手を尊敬した。

 しかし、そんなジョコビッチも「世界でも屈指の速さを持つ選手」と、錦織のことを絶賛していた。「間違いなく、将来、男子テニス界を背負って立つ」と高く評価。ともに認め合う同士の対戦は過去2勝2敗。錦織は11年スイス室内準決勝で日本男子として初めて当時世界1位のジョコビッチを破った。そして、今年9月の全米準決勝。再び世界1位を破ってアジア男子シングルス初の4大大会決勝進出。錦織がつくる歴史の前に必ず絡んでいた。

 11年3月11日、東日本大震災が起きた。世界のテニス界でも、すぐに支援活動が起きた。ジョコビッチは靴下に「JAPAN」の文字を入れてプレーし、支援をアピール。錦織を誘ってマイアミで慈善サッカー大会も開催した。義援金を、赤十字を通じて寄付した。ともにウエアはユニクロ。錦織は11年から、ジョコビッチは翌12年に契約を結んだ。当初、ジョコビッチはユニクロのブランドを知らなかった。しかし、錦織の推薦もあって「ケイが契約している企業なら」と決めた縁がある。

 ベスト4の中で、初出場の選手は、錦織ただ1人。ジョコビッチとの対戦は、来年に向けた大きなステップだった。この試合をきっかけに、世界の頂点に向けた歴史の扉を、錦織がこじ開ける。【吉松忠弘】