熊本地震から約1年が経過した、4月17日。翌日の試合に備えて熊本入りしていた巨人の長野と立岡が、練習前に益城町にある飯野小を訪問した。

 約80人の生徒が体育館に集合。プロ野球選手を前に緊張で顔をこわばらせながら質問する子どもたちの様子を、壁際に置かれたパイプ椅子に座って優しく見つめる60代の女性がいた。この辺にお住まいですか-。そう聞くと、体育館の窓の外を指さした。「あそこから来たんです」。グラウンドに建てられていた仮設住宅だった。

 最大震度7の地震により、自宅は全壊したという。それでも過去を振り返らず、前だけを見ていた。「いろんな経験ができているのよ」と明るい声を発した。「今日もそうだけど、いろんな人が来てくれてね。ジャイアンツの立岡さんも長野さんも初めて見ましたよ。来てくれてうれしいですね。元気になりますね、みんな」。子どもたちとキャッチボールをする光景に、ほおを緩めた。

 交流会の最後に行われた記念撮影。あれだけ硬かった子どもたちの表情が、満面の笑みに変わっていた。仮設住宅に住む女性も、はしゃぎながら選手とのハイタッチの列に加わっていた。熊本出身の立岡は「野球で子どもたちが憧れる選手になったり、夢とかを与えられる職業だと思う。野球の力で、いいニュースを九州に届けられればと思います」と言った。長野は「まだまだ大変な思いをされている方もいると思います。少しでも力になれることがあればやっていきたい」と結んだ。そのうえで、2人とも「逆にパワーをもらいました」と口をそろえて学校を後にした。

 積まれた木材の山、シートに覆われた建物、仮設住宅。移動のタクシーの車窓から見た町には震災の影響が残っていた。だが2選手が体育館にいた1時間は、何度も笑い声が響きわたり、笑顔の輪が広がっていた。そこに震災の影はなかった。野球が、プロ野球選手が持つ無形の力を感じた。【巨人担当 浜本卓也】