ここ鳴尾浜球場。真夏の太陽が容赦なく照り付ける。灼熱のグラウンド。オリックスの先発マウンドは、佐藤世那投手(19)が上がっていた。思い浮かぶのは昨夏の高校野球。全国大会が行われている甲子園球場まではほんの目と鼻の先。そこには、今、目の前で力投する佐藤世那がいたのは記憶に新しい。仙台育英のエース。準優勝投手である。東日本大震災の傷跡はまだ残っていた。地元に勇気を。地元に元気を与えようと必死に頑張り決勝にまで進んだ。結果は読者の皆さんもご存知のように優勝こそ逸したものの、被災地の元気の素となったのは確かだろう。今度はプロの世界でも頑張ってほしい。

 いまだ、そのイメージは残っている。炎天下のマウンドがよく似合う。相変わらずのダイナミックなピッチングフォーム。181センチ、86キロ。恵まれた体は将来性十分。この日の結果は5イニング投げて被安打6、奪三振3、与四球1、失点、自責点は1の内容。ルーキーイヤーにしてウエスタンで3勝目をマークした。ただ佐藤本人は「全然ダメでした」と納得などしていない。課題は多々ある。まずは過去の登板でもそうであったように立ち上がりは不安定だった。1点の献上はやはり初回だった。1イニングに4本のヒットを打たれている。併殺打があってかろうじて最少点に食い止めたものの、ひとつ間違えるなら早々に試合をぶち壊していた。

 平井ピッチングコーチに、この日の内容を聞いてみた。「内容はともかくとして、得点を1点しか与えなかったのは収穫ですかね。それより、やっぱり立ち上がりですね。同じことを繰り返している。佐藤は肩は早くできあがるタイプなんですが、今後は試合前のブルペンでの投球数を増やしてみるとかいろいろ試してみたらいいと思う。まだ若いんですから、いかに、いい状態でマウンドに上がれるか体験してみるべきです。まだコントロール、スタミナ、足腰の強化などやることはたくさんありますから」そういえば試合後、ベンチ前でかなりの時間をかけ、マンツーマンでアドバイスをするシーンがあった。大きく育ってほしいピッチャーの1人。期待度がうかがえる。

 今季の成績に目を通してみた。8試合に登板(先発が7試合)している。ここまで3勝3敗。36イニングを投げて自責点23。防御率は5・75。力不足は否めない成績だ。じっくり見せてもらった。フォームは腕の振りは大きくダイナミック。バッターを攻めているのは申し分ないが、上体がやや突っ込みがちなので腕が遅れて球が高めに浮く。制球に難あり。この日の試合でもボール球が先行し、カウントを悪くするケースがよく見られた。成績の中で、今シーズン投球回数(36)より、被安打(45)の方が多いのはカウントを悪くして生ずる結果だろう。

 「今日の内容は高校時代より悪かったですね。力不足ですので、まだやることはいっぱいありますが、まずはストレートの精度を上げていきたいと思っています。ピッチャーである以上ストレートがよくならないと、ピッチングに幅が出ませんし、変化球も生きてきません。当然まだ、まだ技術面と並行して足腰の強化。スタミナもつけないと1シーズン乗り切れませんから--。とにかく現段階のテーマはストレートの精度です。頑張ります」

 納得のいかない内容だったが勝ち星はついた。勝ち星はピッチャーにとって何よりの良薬。テーマに向かって気分よく進んでいける。現在のフォームの欠点を修正するのはそれほど難しくはないが、コントロールは投げ込んで体で覚えるしかない。リリースポイントの一定。ピッチャーの誰もが一番苦労する技術。自分の感覚を磨くことだ。昨夏の準優勝投手。連盟への登録名は佐藤世那だが、ユニホームの背中は「SENA」でマウンドに上がっている。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)